第70章 最強の鬼
光希は善逸に迫る管を弾く。
「光希っ!!」
「はぁ……はぁ……、善逸、刀は」
「どっかいった」
「馬鹿!!」
「だってえ……」
「…………」
光希は刀を納刀し、腰からスッと外す。
「貸してやる」
善逸の前に刀を差し出した。
「えっ!お前は…どうすんだよ!」
「俺はいい」
「馬鹿言うな!」
「いいって。動けないお前は刀を持っとけ」
光希は善逸に押し付けるように紫紺の鞘を渡す。
「駄目だ!受け取れない、」
「それより、善逸、切り札使うぞ」
刀を返そうとする善逸の言葉を遮る光希。
もう彼女の目は、炭治郎を見ている。
「え……? き、切り札? まだ策あんのかよ」
「当たり前だろ。俺を誰だと思ってんだ。俺たちにしか出来ない必殺技が、まだあんだろうが」
光希はニヤリと笑う。
そう、いつも通りの……あの悪い顔で。
善逸は今まで何度もこの笑顔を見てきた。
光希はどんなに劣勢でも策を考え、そして笑う。
笑うことで自分の中の不安を消しているのだろうか。善逸は、ふと、そんなことを思った。
「合わせてくれ」
それだけ言うと光希は楽な姿勢で座る。
緊張していた身体の力を抜き、口元にはうっすら微笑みを浮かべる。
そして、光希は……歌い始めた。
待ちましょう 待ちましょう
あなたがここに帰るまで
待ちましょう 待ちましょう
いつまでも
いつか 夢みた場所へ 行く日まで
あなたのことを
待ちましょう……
光希の言わんとすることを理解した善逸が途中から光希に合わせて歌い、二人はきれいな和音を奏でる。戦場に似つかわしくないこの歌が、一つの世界を創り上げていく。
義勇しか聞いたことのない、二人の歌声。
思わず誰もが聞き惚れた。
炭治郎からの攻撃が、僅かに緩む。
光希がそれを目で捉える。
二人は歌を続ける。
お空に雲が 浮かんだら
優しいあの子 思い出す
雲を追いかけ 走ったら
あの子に会いにいけるかな
ぷかぷかお空の 白い雲
忘れないよと 手を振った
歌う曲は光希が指示を出している。
昔よく歌ったものを中心に、次々と歌っていく。