第70章 最強の鬼
しかし、切れない。
無惨の時と同様、斬ってはいるものの炭治郎の傷はすぐに修復された。
「………切れねえか」
光希は足元にいる伊之助を庇いながら刀を振るう。手足、頭部、袈裟がけ……、何度も何度も斬りつける。炭治郎も光希に容赦なく攻撃をする。
炭治郎の爪が光希の頬をかすめる。鮮血が飛んだ。
「やめろ!お前ら従兄弟ってやつなんだろ!あんなに仲良かったのに、喧嘩すんじゃねえ!!」
伊之助が泣きながら叫ぶ。
「炭治郎!お前が攻撃してるのは光希だぞ!!よく見ろよ!!やめてくれ!!頼む!!」
善逸も泣きながら叫ぶ。
それでも光希と炭治郎は戦い合う。
激しい攻防の中、失血でふらついた光希がバランスを崩した。
そこへ迫る炭治郎の苛虐な爪。
必死に伊之助が覆いかぶさり光希を庇おうとする。
「炭治郎!!やめろーーー!!」
善逸が叫んだ時、走り込んできた禰豆子が炭治郎にしがみついて攻撃を止めた。
炭治郎は抱きついてきた禰豆子の肩にがぶりと噛み付いた。
「!!!」
戦場に緊張が走る。
「禰豆子!!!」
ぐらりと揺れる視界の中、光希が叫んで手を伸ばす。
義勇が飛び込んで伊之助を蹴り飛ばし、光希を抱きかかえて炭治郎から離れる。光希は炭治郎から目を離さない。
血の味を覚えてしまった、と眉をひそめる義勇。
「お兄ちゃん、ごめんね」
禰豆子の大粒の涙。
「お兄ちゃん独りに全部背負わせたね」
禰豆子は噛まれた肩が痛いだろうに、炭治郎に呼びかける。
「帰ろう。ね。家に帰ろう」
禰豆子のその声を、炭治郎は聞いていた……ように光希は思った。
しかしグオオオオと唸り声を上げて禰豆子に爪を立て、振り払おうとする炭治郎。
禰豆子は離されまいと必死にしがみつく。
その様子を食い入るようなに見つめる光希。
………これは……もしかして……
光希はようやく混乱した頭が冴えてきた。