第70章 最強の鬼
「炭治郎を太陽の元に固定して焼き殺す!!」
義勇の叫びが聞こえる。
逃げようとする炭治郎に刀を突き刺し、それを阻止する義勇。涙がぼろぼろと溢れている。
「人を殺す前に炭治郎を殺す!!」
しかし、炭治郎を苦しめていた陽光灼けが、突如としてピタリと止まる。
炭治郎が太陽光を克服した。
殺す……
炭治郎を……殺す
走りながら光希は呟いた。
頭がおかしくなる。
なんで………
なんでこうなった
最悪じゃないか
炭治郎を斬ることなんて誰にも出来ねえだろ
義勇が炭治郎に攻撃され、首を狙われたところに伊之助が助太刀に入る。
伊之助は義勇を守りながら炭治郎と戦い、その首に刃を振るうが、出来ねえ……と攻撃をやめてしまう。
光希は走る。炭治郎の元へ。
ほらな……
出来ねえんだよ
好きだから
みんなお前のこと大好きだからさ
斬れねえよ
だからさ……
「伊之助ーー!!どけーーっ!!炭治郎は―――俺が!!俺が斬るっ!!!」
炭治郎、辛いよな……
大好きだった仲間を傷付けるなんて、嫌だよな、苦しいよな
だから、俺がこの手で殺してやるよ
この役目は、俺しか出来ねえだろうから
お前は俺がこの手で送ってやるよ…………
炭治郎からの攻撃をかいくぐって、光希は踏み切って跳ぶ。
そこに、迷いも躊躇も一切ない。
「炭治郎!!俺もすぐに追いかける!!」
そう叫ぶと、光希は炭治郎の首に刀を振った。
左手一本の水面斬り。満身創痍の光希に出来る、渾身の一撃だった。
正確で強いその斬撃は、確実に炭治郎の首を捉えて振り切られた。
その光景はあまりにも美しく、――――――そして……あまりにも悲しかった。
皆が唖然とする。
善逸も息を呑む。
………本当に、斬りやがった
それは、光希の炭治郎への深い愛だとわかる。炭治郎を殺すのは自分だ。誰にも譲らない。
そして直ぐに自らも命を断つ。
その哀しいまでの愛と覚悟がはっきりと見えた。