第70章 最強の鬼
義勇は炭治郎を探して歩き回る。
隠が必死に止めるが、聞いちゃいない。
「冨岡さん、お願いですから動かないで」
「炭治郎、炭治郎はどこだ……無事なのか」
辺りを見回す義勇の目に、静かに座る炭治郎が映った。
手には折れた日輪刀を握っている。
目を閉じて俯いて、動かない。
傍らには泣き崩れる隠。
それは、彼の死を意味していた。
義勇は自分の体温が急激に冷え込んでいく気がした。手足が震える。
守りたかった。
絶対に守り抜きたかった。
例え自分の命がなくなろうと、この子を守りたかった。
義勇の目から涙が溢れる。
握っていた桑島の刀を取り落とす。カラン……と悲しい音がした。
ふらりと彼の前に座り、まだ温かい炭治郎の右手にそっと触れる。その手が動くことはない。閉じられた目が開き『義勇さん!』とあの温かい笑顔が向けられることも、もうないのだ。
信じたくない。信じられない。
誰か嘘だと言ってくれ。
「……また守れなかった」
自分の無力さに打ちひしがれる。
悔しさと虚しさ、自分への怒りで涙がどんどん溢れる。こんなに泣くのは錆兎を失ったあの時以来だろう。
「許してくれ……すまない、禰豆子…光希………すまない……」
義勇が泣きながら頭を垂れた時、炭治郎がすぅっと顔を上げる。
炭治郎の左目を覆っていた肉瘤が消えていき、両目が開かれる。その目はいつもの彼の目ではなく、――――鬼の目だった。
炭治郎は一瞬で左腕を再生し、側にいた隠を攻撃する。
危機を察知した義勇が、反射的に飛び込んで隠を助ける。一手遅れていたら間違いなくこの隠は死んでいた。
混乱しつつも、すぐに動く義勇。
―――どういう事だ!一体何が起きた!!
義勇は炭治郎の目を見る。
そして刹那の間に全てを理解する。
「動ける者ーーっ!!!武器を取って集まれーーっ!!炭治郎が鬼にされた!!!」
義勇が力の限りに叫び、また炭治郎の攻撃から隠を助ける。
その声を聞いて、思考停止した善逸が固まる。
「……え? ……鬼? 炭治郎が鬼って、……どういうこと?」
そう呟いた時、隣にいた少女が駆け出した。
「えっ?ちょっと光希!!待って!!」
光希は善逸の声に振り向くことなく駆けていく。点滴の針は既に抜かれていた。