第10章 想い
少し歩くと街道沿いに休憩用の丸太があった。
二人で並んでそこに座る。
「久しぶりだな」
善逸が光希を見ないまま話かける。
「そうだな」
光希がそっけなく答える。
暫く沈黙。
空気が重い。
「話ってなんだよ」
光希が言う。
「……お前も話があんだろ」
善逸が言う。
「俺から、いいのか?」
光希が聞く。
「待って。心の準備するから」
善逸が答える。
話せとか待てとか、何だこいつと思いながら、光希はしばし待つ。
「いいよ」
善逸が覚悟を決めたように、そう言う。
声が少し震えている。
光希は善逸の震えの理由がさっぱりわからなかったが、話始めた。
「お前、まさかとは思うが、あの噂信じてるのか?だとしたら本当にぶん殴りたいんだけど」
俺、義勇さんと恋人になったんだ…と言われるのを覚悟していた善逸は、固く瞑っていた目を開く。
「え……?」
「え、て、お前。まじか。まじで信じてたのか。本当に馬鹿だよな。
何で俺が義勇さんと深い仲になんなきゃいけないんだよ。はぁ、腹立ってたけど、馬鹿らしくて力抜けるわ」
「だって……」
やっと光希を見る善逸。
「だって、何だよ」
不機嫌丸出しの光希が善逸をじろりと睨む。
「だって、普通に考えて、有り得ることだろう。いや、お前は女だから男色じゃないけどさ、恋人になるとかはさ……」
「じゃあ、俺は普通じゃないんだろ」
「何もないのか?あの人と」
「ないよ。もし何かあんなら真っ先にお前に言うだろ」
光希の音に嘘はない。
善逸から、張り詰めていた力が抜ける。
「お前は俺より、あのへんちくりんな噂を信じたんだな。炭治郎や伊之助だって信じてなかったのに。まさか、お前が俺を信じてくれないとはな……」
「違っ……」
「何かあった方がよかったのかよ。そっちがお前の望みなのか」
「光希、違う!」
「俺は義勇さんに特別な感情を抱くことはない。話はそれだけだ。こんな話をわざわざしなくちゃならないとはな」
光希から悲しみの音がする。
「じゃあな」
そう言って立ち上がる光希。
「待てよ!」
善逸が光希の手を掴む。
まばらではあるが、街道を歩いている人が二人を見る。