第69章 命の限りに
「……王手…詰み………」
光希はそう呟いて、空中でふわっと意識を手放す。
………頼む…これで終わって…くれ………
受け身も取れず落下する中、落ちてくる光希の身体を義勇と不死川が受け止めた。
彼女に辛うじて息があることを確認すると、不死川は光希を追うように意識を失ってぱたりと倒れる。
寸秒の静寂の後、戦場が無惨討伐に沸き立つ。
皆が泣き、抱き合い、喜び合う。生き残った者たちの歓喜の声が高らかに響き渡った。
「光希、よくやった。偉いぞ。よく頑張ったな」
義勇はそう言って、光希を片腕で抱きしめた。『色々な諸事情』をかなぐり捨てて抱きしめたその体は、とても小さく儚いものに思えた。
光希に意識はないが、その身体は暖かく、トクントクンと鼓動も感じられる。
光希の命を感じながら、覆いかぶさるように身体を寄せる義勇。その師弟愛の姿に、周りの者たちは涙を流した。
義勇は光希の右腕を気にしながら彼女をそっと地面に横たえ、隠に手当を任せる。
そして自分は隠を振り切って炭治郎を探しにいく。
戦場では全ての治療を断った悲鳴嶼が、最愛の子どもたちと再会を果たし、涙を流しながら優しい笑顔を浮かべる。
皆で手を繋ぎ、旅立っていった。
伊黒と甘露寺は秘めていた互いの愛を語り合い、来世での幸せを約束をする。伊黒の腕の中、大粒の涙を流す甘露寺。伊黒も涙を零しながら彼女を支える。
二人は折り重なるように、ひっそりと旅立っていく。
あちらこちらで、瀕死の隊士たちの命の灯がふわりふわりと消えていく。
今旅立つ者たち達は皆、無惨と激闘を繰り広げたという誇りと、討伐できたという喜びに包まれながらこの世に別れを告げる。
光希は意識のない中、ぼんやりと仲間たちの旅立ちを感じていた。
………沢山お世話になったのに、みんなにありがとうが言えなかった……
戦いの前半は本部にいた光希。
大好きな人たちの最期の手を握ってやれていない。
「……ごめ……な…さ…い……」
光希は治療されながら小さく呟いた。