第69章 命の限りに
「如月様……」
「ごめん、草履貸してくれる?」
「は、はい。私のでよければ」
「悪いけど履かせてくれ」
戦場から目を離さないまま、光希は隠に草履を履かせてもらう。足袋のまま走り回っていたので、足袋も破れて足の裏が血だらけになっていた。
「ありがとう、ごめんね」
「いえ」
履かせてもらった草履は少し大きかったが、足首でぎゅっと縛ってもらったので問題はない。
戦場では、無惨が悲鳴嶼の鎖を引きちぎり、地中に潜って逃げようとしている。
「俺が切る!!離れろ!!」
光希は大声で呼びかける。
その声に柱たちが振り向く。
状況を理解した義勇が「離れるぞ!」と声をかけ、近くにいる隊士たちが急いでその場を離れ始めた。
「炭治郎!聞こえるか!!お前は中からだ!!俺は外から行く!!」
光希は納刀して、負傷している右手で鞘を支える。右腕全体から首、腰にまで激痛が走った。
―――いるよな、炭治郎。無惨の中に……
痛みを堪えて深い前傾姿勢をとる。足元からバチバチと閃光が走る。短くなった髪の毛と、頭に巻かれた包帯の端が、巻き起こる風に吹かれて激しく動く。
―――……俺は香車になって突撃する。お前は成香で近距離攻撃。二枚の香車で無惨を叩き切るんだ!!!
「お前ごと切ったらごめん!」
「退避完了!光希っ!行けーーっ!!!」
「はい!!!」
義勇の声に、大きく返事をする。
ゴオッという音と共に閃光が走り、光希の姿がその場から消えた。
「水の呼吸、拾壱ノ型、――水流一閃!!!」
高速で飛び込んだ光希の刀が、激しい水流を描きながら無惨の頭部を真っ二つにする。同時に無惨の腹部から火を纏った斬撃が走った。
火と水。対照的な属性が混ざり合う。
本来なら真逆で、合うはずのないもの。
それがこうしてぴったりと合うのは二人が従兄弟だからなのか。
「不適合」も逆転させれば「適合」になる。
光希の逆転の呼吸は、奇跡を繋ぐ架け橋のようなもの……なのかもしれない。
二人に斬られた無惨は叫び声を上げて反り返り、大きな音と砂埃を立ててゆっくりと地に倒れた。
その身体は、暖かく降り注ぐ太陽の光の中で細かい塵になって消えていった。