第69章 命の限りに
炭治郎がいなくなった瞬間から、ガラガラと崩れた光希。心が折れているのが、自分でもよくわかる。
………俺は皆の光なんだから、ちゃんとしなきゃ。やらなきゃ。悲しいとかは後回しだろ。やらなきゃ…やるんだ……
わかってる。
頭では理解しているのだ。
でも、どうしても心が追いつかない。
光希は無惨に弾き飛ばされて転がる。
額が切れて、血が溢れた。
隠が「如月様!」と駆け寄ってきて治療を始める。
「光希!!」
戦いながら義勇が叫ぶ。
「考えが纏まるまで、来るな!!」
「義勇さ、」
「今のお前は、要らない!!」
光希は言葉でぶっ叩かれた気がした。
………そうだよな。今の俺は、足手まといだ
光希は転がったまま、ぼんやりと皆の戦いを見つめる。隠が光希の額に布を当てて、止血していく。
………すごいなぁ、皆。柱も、炭治郎も、強いなぁ……俺はこんな時に、なんでこんなに弱いんだ……
『考えが纏まるまで来るな』
義勇の言葉の意味を考える。
光希はスッと目を閉じた。
………考えろ。今、俺に何ができる。心が追いつかないのは考えが纏まっていないからだ
将棋盤を脳内に描く。
飛車の不死川、角の義勇。
攻撃の要である大駒は奮戦してる。
金の悲鳴嶼、銀の伊黒、歩兵の隊士たち……みんな力の限り戦っている。
状況を把握しながら、今居る盤上の駒を動かしていく。自陣の駒はだいぶ少なくなった。持ち駒も、ない。
相手は猛烈に強い王だ。常軌を逸した動きをしてくる。本来一マスしか動けないはずの王が、盤上を縦横無尽に動き回っている。
しかし、それは一枚きりで周りに兵士はいない。
光希は自陣の中に戦える駒がないかと探す。
善逸、伊之助は負傷して治療中。甘露寺はもう戦えない。カナヲは所在不明。
そして脳内の盤上に、ぼんやりと光るものを見つける。
もうニ枚、駒があるじゃないかと気が付いた。……いや、あると信じたい。信じろ。信じるんだ。
光希はゆっくりと目を開く。
さっきまでの弱々しさは消えた。
………俺は歩兵じゃない。俺も香車だっ!!誰よりも強い香車になれ!!
光希は立ち上がった。