第69章 命の限りに
光希は、はぁはぁと荒い呼吸が止まらない。
駄目だ、落ち着け、冷静になれ、と必死に繰り返す。
「……どれだけ奪ったら気が済むんだ」
光希が無惨を睨みつける。
「俺の……皆の大事なものを、あとどれだけ奪ったらお前は満足するんだ!!!」
ギリッと歯を食いしばり、光希が叫ぶ。
怒りが抑えられない。悲しみがとめどなく溢れかえる。
でも、それでも。
光希はそれを抑える。荒い呼吸と共に。
『軍師は常に冷静であれ』
必死に心の中で繰り返す。
炭治郎と伊之助、善逸がまた無惨へと向かう。
そして、こちらへと動き出しているいくつかの気配。
局面を脳内に思い浮かべて把握していく。
光希は大きな声で叫んだ。
「皆の者に告ぐ!!!!」
戦場に響く、よく通る声。
「強き心を持て!!!」
自分に言い聞かせるように叫ぶ。
「まもなく日が昇る!武器を持ち、皆の命をここに集結させよ!!」
光希はバサッと音を立てて薄紫色の羽織を脱ぐ。彼女の背中に『光』の文字が現れる。柱以外に己の背中を初めて見せた。
その文字は、まるで夜の闇に浮かび上がるかのように輝いて見えた。
「俺は鬼殺隊の、希望の光だ!!!光がある限り、俺たちは負けない!!最期まで諦めるな!!!」
光希は叫びながら、もう動かない鴉を見つめる。
「息のある者は、死んだ者の命を背負って戦え!!その者が死んだら、また次の者が背負って戦え!!それが、死んでいった者への、最大の敬意だ!!行くぞ!!!」
「うおおぉぉーーーっ!!」という絶叫のような声があがり、皆が戦場へ集結する気配がする。
「隠、救護班、建物影に待機せよ!一ヶ所に固まるな!最大数、三!!剣士は隙をついて支援、隠及び負傷兵を守れ!!」
指示を出しながら光希は脱いだ羽織で鴉の身体をそっと包む。
………鴉くん、いつも俺の膝の上で寝てたよね。少しでも俺の匂いのするものがあると、安心できるよね。……おやすみ。ありがとう……大好きだよ……
「俺の中の弱虫を、全部食ってね」
そう言い残し、光希は光の一文字を背負って戦いの中へ駆けていった。