第9章 自分で
冨岡邸にある置き薬がなくなりそう、という理由で、義勇から蝶屋敷へ行けと言われた。
光希は善逸たちに会えることが単純に嬉しかった。
翌日、仕事がなかったので光希は蝶屋敷へ出かけた。
「誤解を解いておきたい奴がいるなら、解いてこい。帰りは遅くなって構わない」
そんな義勇らしからぬ事を言って光希を送り出す。お使いの本当の理由がわかり、気遣いに感謝しながら出発した。
―――誤解も何も、皆俺が女だって知ってるし、噂なんて信じてないだろ
わりとのんきに蝶屋敷に足を踏み入れた。
光希が顔を出すと、蝶屋敷の面々が嬉しそうに駆け寄ってくる。光希は必要な置き薬を書いた紙をアオイに渡し、お願いした。
男子は皆、任務に出ていた。
炭治郎や伊之助は任務から帰ってくると、光希の訪問をとても喜んでくれた。
だが、善逸が帰ってこない。
「善逸、遅いなぁ……せっかく光希が来てくれてるのに」
炭治郎が眉毛を下げる。
「まあ、仕方ないよ。怪我してなけりゃそれでいい。また来れる時に来るよ」
光希は少し寂しそうに笑った。
「なぁ、光希」
「ん?」
「あの噂は嘘だよな。ほら冨岡さんとの」
「当たり前だろ。俺と義勇さんの間には何もないよ。どっから出たんだか。全く迷惑だぜ」
「だよな!俺もそう思ってたんだけど、善逸が、元気なくて……」
「はぁ?何あいつ噂、信じてんの?マジかよ……」
「いや、信じてるというか、きっと不安なんだよ、善逸は」
「不安、ねぇ……」
「また手紙でも書いてやってくれ」
「わかった。ありがとな」
――…信じるわけないと思ったけど、信じてる馬鹿がいた
光希はちょっとムカついた。
何で噂なんて信じるんだ馬鹿野郎。何かあるならちゃんと話すし、兄弟を信じろよ。
「そろそろ帰るよ」
そう言って、光希は立ち上がる。
アオイから薬を受け取り、皆に挨拶をして蝶屋敷を出る。
門を出ると腕組みをした善逸が塀に持たれていた。
「なんだよ。いつから居たんだよ」
「さっき帰ってきたんだよ。お前の帰るって声がしたから外で待ってた」
「そうかよ」
「ちょっと話がある」
「そうだな、俺もだ」
ややピリついた空気のまま二人は連れ立って歩いた。