第69章 命の限りに
すぐに光希は立ち上がる。
………泣くな!泣くな!泣くなっ!!
必死で自分に言い聞かせて目を開く。睨むように戦場を見る。
大事な物を次々に無くしていく。
そのとてつもない辛さに、心が壊れそうだ。
「うわぁぁぁぁーーーー!!!」
泣かない代わりに、光希は叫んだ。
力を込めて思い切り叫んだ。
自分を奮い立たせるために。
死んだものの想いを背負うために。
生きているものに勇気を与えるために。
そして、悲しみに負けてしまわないように。
光希の刀がまた赫くなった。
その光希の叫び声が遠くに聞こえ、善逸は目を覚ます。
………光希だ。光希が戦ってる
だが、身体が動かない。
………行かなきゃ。俺も、一緒に戦うんだ
手足に力が入らない。
千切れたのかと思ったが、ぼんやりと見えた中に両手足がちゃんと存在した。
………おお、付いてら。よかった。これで光希のところまで行けるし、あいつを…守ることができる。抱きしめてやれる……
善逸は手に力を込める。指先がピクッと動いた。
「………うぐぐ…、」
力を込めて腕をあげようとする。
それだけで全身に痛みが走る。
「……はぁ、…はぁ……」
少しずつ可動部を広げるように力を入れていく。
痛みと戦いながら、善逸は耳を澄ます。
光希の声と、多くの爆音。伊黒の声もする。………そして炭治郎の声。
善逸はもがくように身をよじって身体を動かす。
「うぐっ……いっ…てぇ…」
眉を顰める。
「はは…痛いの皆は同じ、だよなぁ……」
光希が言っていた言葉を思い出して軽く笑う。
「負けねえ……弱気な自分にも、無惨にも、炭治郎にも……」
善逸は歯を食いしばって、立ち上がろうとした。
善逸だけじゃない。
光希の叫び声で、あちらこちらから覚醒の音がする。それぞれがそれぞれの方法で、また立ち上がろうとしているのだ。
「こんにゃろぉ!!負けて、たまるかーーー!!!」
ガァァァンという地鳴りと共に、また聞こえる光希の叫び。
皆の勇気をわき立たせる、希望の声だ。
「いいけどさ……もうちょっと、可愛い言葉で叫べよな……」
善逸は苦笑いをこぼした。