第9章 自分で
光希は鍛錬と任務をこなし、着実に力を付けていった。
柱や先輩隊士たちと逆転の呼吸を使い、相性の良い呼吸や悪い呼吸もわかってきた。毎回義勇に報告や相談をし、検証も重ねていった。
次第に隊の中で光希は有名になり、とある噂が広まるようになってきた。
それは、冨岡義勇がやたら美しい少年を育てていて、その二人は深い仲である、というものだった。
「義勇さん、変な噂が流れてますよ……」
「気にするな」
「まあ、俺は男じゃないし、そもそもとんだ誤情報ですけどね」
「そうだな」
全く気にしてない様子の義勇。
光希もさほど気にしてはいないのだが、義勇が陰でひそひそ言われるのは腹が立つ。
でもそうした隊士を叩きのめせば、より一層信憑性の高い噂として出回るだろう。
「妙な噂立てる暇があったら鍛錬して強くなって鬼殺しろっての……」
怒りを滲ませて光希がおひたしを啜る。「あちっ」と顔をしかめる。
義勇も気にするな、と言ったものの、一応嫁入り前の娘である光希に妙な噂が立つのは好ましくないな、とは思っていた。
女だと判明したらそれこそ酷い勘ぐりや噂をされるかもしれないということで、今後伏せるように二人で話し合った。
「ご迷惑をおかけして、すみません……」
「お前は何も悪くない。放っておけ」
はぁ……と光希は溜息をついた。
不死川のことといい、独り立ちした途端に問題を起こしてばかりの自分に嫌気がさす。
人の出入りが多い蝶屋敷でも、光希の噂は流れてきていた。
善逸は心穏やかではない。
―――…光希は男じゃないから冨岡さんの色子ってのは嘘だってわかるけど。
二人が深い仲だってのは、間違いじゃないのかも…いやでも、そんな……ねえ?…
ここ数日浮かない顔をする善逸に、炭治郎も心配して声をかける。
「善逸、噂を信じちゃ駄目だ」
「わかってる」
「光希に聞いてみればいいだろう。連絡とってないのか?」
「最近忙しいみたいなんだ」
「そうか……」
冨岡さんと光希。
危惧していたことが突きつけられて、善逸は肩を落とした。
あの山以来会えていない。
手紙はたまに来るが、善逸個人宛のものはほとんどない。不安でたまらなくなる。
はぁ……とこちらでも溜息が聞こえた。