第9章 自分で
駒を箱に片付ける光希に、義勇が言う。
「待て、もう一局だ」
「いいですよ」
「飛車……」
「はい。角も落としましょう」
大駒を落としての、もう一局となった。
駒を並べる際、義勇がよこしてきた王を笑いながら受け取り、義勇に玉を渡して飛車と角を盤面から外す。
「お願いします」
さらに先手も義勇に譲っての第二局。
それでも光希は勝利した。先程よりは攻め込まれたが、今回守りの陣を敷いた光希の王は、まだまだ危なげない位置にいる。
「あの、俺に勝てる人そうそう居ないんで、落ち込まないでください」
盤面を見つめて固まる義勇に光希が声をかける。それを聞いて、より一層むなしさがつのる義勇だった。
駒を片付けながら光希が言う。
「子どもの時から、飛車角銀落ちで大人と指してましたから。善…幼馴染は勝てないからって相手してくれなくなっちゃいましたし」
「……誰に教わった」
「ええと、世話焼いてくれたお爺さんとか、宿に泊まりに来てるお客さんとかです」
ほぼ独学でここまで強くなったと知り、唖然とする。
「確かに、義勇さん、そこそこ強かったですよ。王手飛車取り回避されましたし」
にこりと笑う光希に何も言い返せない義勇。
「次回は囲碁だ」
「あ、俺、囲碁の方が強いです」
さらりとそう言われて義勇の完敗となった。
部屋に帰り、思い出す。
『もうやだ、ぜってえ勝てねぇもんお前には。光希強すぎ。もうやらない!』
『やらねぇと強くならないぞ、善逸』
『やだ!もうやらねぇ!囲碁も将棋もやらねぇ!弱くていんだよ俺は!どうせ馬鹿だもんね!』
連敗続きでふて腐れ、愚図って泣いた善逸。
思い出しながら、あいつの自己肯定感や自信を容赦なくたたき潰してたのは、自分なのではと思ってゾクリとした。
最後に二人が対局したのは、たしか十歳頃。それ以来善逸とは囲碁も将棋もやってない。
今だったらやってくれるかな……
「久々にやるか?お前は、王と歩だけな!」
なんて言って笑う善逸を想像して、くすっと笑った。
―――ま、王だけで戦っても、あいつに負ける気はしないがな
と、思いながら。