第68章 仲間と共に
「善治郎!!」
闇の中を走り出した光希は、すぐさま鴉を呼んだ。
「おう!」
「手はずは!」
「ぬかりない!こっちだ!」
「よし!流石っ!」
光希は鴉に付いていく。
「あ、光希ちゃん!」
「梶山さん!ありがとう、頼むよ!!」
そこには一台の車が停まっていた。
この時代、高級品である自動車。梶山と呼ばれた男も良い服を着ている。整えられた口ひげを生やした、三十代半ばくらいの男だ。
―――三日前の光希と宇髄の会話
『……自動車?』
『ああ。もし無惨が逃げちゃったり、どこか遠くに飛ばされちゃったりして、戦場が遠くなったら困るだろ?行くまでに時間がかかっちまう上に、へとへとで到着しても役に立たねえ。移動手段としてありかなって思ってさ』
『でもよ、そんなもんどこに……、隊は所有してねえぞ。今から運転手と自動車って、』
『へへへ、俺の人脈なめんなよ』
光希は産屋敷邸に無惨が現れた時にすぐさま鴉を飛ばし、車を手配した。
用意しておいて、もし使わなければそれでよし、というのが光希の考えだ。
慣れた感じで車に飛び込む光希。
「ごめん、最速で飛ばして!」
「了解!」
「善治郎、案内だ!」
「おう!」
けたたましいエンジン音をたてて車が動き出す。
この男、街の近くでタクシーの運転手として仕事をしている。まだあまり知れ渡っていないこの職種。高額なことあって利用客も少なく、不貞腐れていたところを鬼に襲われた。
そこを仕事帰りに通りかかった光希と義勇が助けたのだ。
光希は鬼殺隊士としてあたりまえに助けたのだが、この男はどうしてもお礼がしたいと言って聞かなかった。また、元来好奇心の塊のような光希も、自動車というものに興味を持った。いつか何かに使えるのではないかと……
光希は梶山との出会いを切ってしまわずに、自分の中に残した。今や梶山の家族とも仲良くなり、子どもたちも光希に懐きまくっている。
そしてその縁が、今回こうして一つの切り札となった。