第67章 知以滅殺
光希は宇髄に近付く。
「天元さん、ありがとう。凄く、凄くありがとう。俺を丸ごと受け入れてくれて、いつも側にいてくれて、感謝してる」
「……おう。お礼に接吻していけ」
「出来るか馬鹿、子どもが三人も見てんだぞ」
光希はそう言って笑う。
そして笑ったまま宇髄にふわりと抱きついた。光希から抱きつくのは初めてだ。背中に回された手に驚く宇髄。
「天元さんがいてくれて良かった」
宇髄は想いが溢れて言葉が出てこない。
言葉の代わりに片腕で光希を強く抱きしめた。
「大好きだよ」
「……おい、んなこと言っていいのかよ」
「はは、いんだよ」
恋愛の好きでないことは、わかってる。それでも宇髄は心底嬉しいと思った。
「………死ぬな」
「うん」
そう言うと光希は宇髄の腕から抜け、「知以滅殺!」と高らかに叫んだ。
広間の皆がそれに呼応して「知以滅殺!」と声を合わせる。
「行ってきます!」と皆に向けて一礼した光希は、縁側から飛び出して走っていった。
高めの位置で結ばれた髪と、薄紫色の羽織を揺らして闇の中を駆けていく。その後ろ姿はまるで、遊びに出かける子どものようだった。
これから死地へ行くというのに……
やっと行ける。早く仲間の所に行きたい。
共に戦うんだ、命を賭けて、この命が燃え尽きる最期の最期まで……!
そんな声が聞こえるようだった。