第9章 自分で
部屋に行くと、義勇は将棋盤と駒を用意していた。
なかなかいい将棋盤だ。
「お待たせしました」
「座れ」
「はい」
義勇が駒の入った箱を返し、駒を将棋盤の上に出す。ザラララ…と懐かしい音がする。
「どのくらい指せる」
「強いですよ、俺。かなり久しぶりですけど」
自分で強いと言い切ったことに驚く。
「義勇さんは強いですか?」
「そこそこだ」
「そこそこ……大駒落としましょうか?」
なんと光希から飛車角落ちのハンデの提案が来る。口元には笑み。こんなに舐めてかかってくるのは初めてで、義勇も珍しく心がざわついた。
「必要ない。……たいした自信だな」
「そこそこ、の腕だと秒殺しますよ、俺」
お互い素早く駒を並べていく。パチンパチンと音が鳴る。
中央に王と玉が残る。光希は「では、とりあえず」と断りをいれて、格下である『玉』を取る。
自陣の真ん中に玉を置き、「お願いします」と頭を下げる。
「あ、先手は、どうぞ」
顔を上げた光希がニコリと笑っていう。
―――泣かしてやる
珍しく義勇も、闘争心に火がついた。
五つも下の小娘に負けてなるものかと思った。
義勇が飛車前の歩をパチンと動かし、二人の静かな戦いが始まった。
そして、「王手、詰みです」と響く光希の声。
光希の圧勝だった。
いとも簡単に攻め込まれ、なす術なく一方的にやられた義勇。光希の陣は殆ど崩されていない。
―――頭が良い奴だと思っていたが、まさかこれ程とは…
青ざめながら将棋盤を見る。
「言ったでしょ?俺、強いですよって」
駒を中央に集めながら光希は嬉しそうにする。
「やっと、義勇さんにひとつ勝てた。負けっぱなしだったもんなー。やったー」
へへへ、と笑いながら箱に駒をしまい始める。