第9章 自分で
義勇は食事を続けるが、光希は出汁巻き卵をつついている。
「どうだった」
「……風とはそれなりに合うようです。恋柱さんや岩柱さんよりよっぽど」
「そうか」
「でも……ムカつきます。あの人何なんですか。本当に。くそっ」
「俺と不死川は仲が良くないからな」
「俺もあの人、大っ嫌いです!」
そう言って光希はガツガツとご飯を食べ始めた。
食べ終わると「喧嘩してすみませんでした。以後気をつけます」と頭を下げる光希。
義勇は愛弟子を見つめながら「伊黒と組むときも気をつけろ」と呟いた。
食後も苛々が止まらない光希は、稽古場でもやもやを振り払うかのように鍛錬をしていた。
打ち込み台に連撃を繰り出すも、呼吸が乱れていて思ったような打撃にならない。
不死川に殴打された所があちこち痛む。
「だー!!もー!ちくしょおー!!」
光希はぜぇぜぇと息を荒くして、大の字に寝転んだ。
気配を消して暫く様子を見ていた義勇。
珍しい光希の姿に、余程の事を言われたんだろうな、と推察する。
「おい」
「え?はい!何でしょう」
稽古場の入口から義勇が話しかける。気配に気が付かなかった光希は驚いて姿勢を正す。部屋着のままなので稽古をつけにきたわけではないようだ。
「将棋は指せるか」
「あ、はい」
「掃除が終わったら部屋に来い」
そう言って義勇は自室へ去った。
少しの間ぽかんとしていた光希だが、慌てて掃除を始める。
掃除をしながら、気を遣わせたのだと反省した。落ち着かせようと将棋に誘ったのがわかる。
――将棋か。将棋ね…
苛々が落ち着いてきたのと同時にむくむくと湧き上がる新たな闘争心。
――やっと、義勇さんに勝てる
掃除道具を片付け、にやりとする。
不死川のことはきれいに抜け落ちていた。
光希の脳みそは案外単純に出来ている。
光希は好戦型ではあるものの、敵となる相手は複数設定出来ない。そのため、敢えて敵を不死川から自分にすり替えた義勇の作戦は成功だった。
ただ、将棋にしたのは彼のミスだったろう。
光希は将棋がめっぽう強かった。