第66章 開戦
「雷の呼吸、漆ノ型、火雷神」
それは、善逸の最速技「神速」を越える、新たな高速技。ここまで隠してきた、善逸の切り札だった。
火雷神は、獪岳の視認出来る速度を遥かに上回る。
鋭い斬撃が、獪岳の首を――切った。
「この技で、いつかアンタと肩を並べて戦いたかった……」
自分の持てる全ての力で兄弟子に向かった善逸は、そのままふわりと意識を手放した。
重力に引かれて落下していく。
意識はないのに、右手に持った刀を手放さない善逸。剣術が獪岳と自分を繋ぐ唯一のものである気がして、無意識下でも離すまいとしていた。
善逸は夢を見た――――
美しい川の対岸に、慈悟郎が居た。
「ごめん、じいちゃん!」
善逸は涙を流しながら許しを請う。
ごめん、許して、と何度も繰り返す。
嫌われたくなくて、側に行きたくて、声を聞きたくて、善逸は泣きながら川へ駆け寄る。
だが、足元の彼岸花が彼に絡みついてくる。
行くな、行ってはいけないと、花が止める。
行かせろ、行かせてくれと、善逸は足掻く。
対岸の慈悟郎が、落ち着いた声で善逸に語る。
『善逸』
花と格闘していた善逸が、弾かれたように顔を上げる。
『お前は儂の誇りじゃ』
心に直接響いてくる慈悟郎の声。
そして……大粒の涙。
………じいちゃん!じいちゃん!!じいちゃん!!!
この世で最も尊く、そして何よりも嬉しい言葉をもらい、善逸からはもう何も言葉が出てこない。
言葉の代わりに、目から涙が溢れる。
ありがとう、ごめんなさい、大好きだよ。
他にもたくさんの想いを、善逸は次々と涙に変えてぼろぼろと溢れさせた。