第66章 開戦
――――そしてそこへ、ついに訪れる訃報
「胡蝶しのぶ、死亡……です」
目を見開く光希。
しのぶの声が、笑顔が、一気に頭に浮かぶ。治療や処置を通して何度も触れた彼女の柔らかい指を思い出す。
彼女が死ぬことはわかっていた。
光希は童磨との戦いを報告し、それを元にしのぶは更なる毒の開発に尽力していた。副作用を度外視して体内に毒を溜め込み、姉の敵討ちを虎視眈々と狙っていたのだ。
正に命をかけた彼女の、大勝負。
乾坤一擲だ。
……まだ、終わってない。ここから、ですね、しのぶさん
光希は見開いていた目をすぐに戻す。
「敵はしのぶを吸収したな」
「はい……」
「よし。カナヲも到着してるな。伊之助を急がせろ」
まるで心がないかのように、淡々と指示を出す。いつもの彼女と違いすぎて輝利哉は不安になる。
その不安を感じ取ったのか、光希は輝利哉に声をかける。
「悲しむのは、後だ。黙祷も無し。目を閉じるな。ここから先はこんなもんじゃねえぞ」
「ああ」
「くいな、しのぶの死を皆に伝えろ」
「隊士に動揺を与えます」
「士気上げになる。流したほうがいい」
「はい」
「死亡!!胡蝶シノブ死亡!!上弦ノ弐ト格闘ノ末、死亡ーッ!!」
鴉が飛び回って、皆に伝える。
報を受け取った義勇。
一瞬だけ驚いた表情をするも、やはりこちらもすぐに落ち着ける。
足を止めることなく走っていく。
無残に向かって走る。走る。走る……
「ありがとう……お疲れ様」
光希と義勇が、同時に呟いた。
悲しみをぐっと胸に隠して。