第66章 開戦
戦況が大きく動いた。
「胡蝶しのぶ、上弦の弐と遭遇しました!戦闘開始です!」
「っ!」
広間の緊張が高まる。
「来たな、上弦」
「光希」
「至急、カナヲを戦闘場所に誘導。しのぶと共闘させる」
「はい!」
「光希、少し離れているが、嘴平伊之助もいる」
「よし、鴉に案内させろ」
「わかりました」
光希の指示で少女達が指令を伝える。
「あいつは強え」
光希は以前童磨と戦ったことを思い出す。不死川と二人がかりで、全く歯が立たなかった。
「でも、今回は大丈夫だ。勝てる」
そう言いながら、光希は眉を寄せた。
そこへ矢継ぎ早にもう一報。
「我妻隊士、上弦の陸と鉢合わせしました!」
一瞬だけ光希の集中が乱れた。
が、すぐに落ち着かせる。
「……我妻、え、我妻善逸か!光希っ!」
「ああ、わかってる」
「救援に行ける隊士が、……周りにいません。単独です」
「くっ……、遠くても急ぎ誰かを!」
「救援は、不要」
静かな声で光希が言った。
「なっ!上弦だぞ!柱を付けなければ」
「不要だ」
「死んでしまう!」
「死なない」
「でも、」
「死なない」
光希はそれだけを伝える。
「……うーん、上弦が一気に出てきたな。ここからまだ出てくるぞ。兵力が分散される。柱と隊長をうまく散らして何処に現れても対処できるようにしよう」
「う、うん……」
声は落ち着いているけれど、有無を言わせぬ光希の圧に、輝利哉は黙るしかない。
そもそも救援が困難なのだ。
光希はまた全体図を見ながら指示を出していく。無惨を探さなければならない。個々の戦いも肝要だが、最終目標である無惨を見つけることが急務だ。
光希だって、本当はパニック状態だ。
内心では叫び出したい。
どうする?どうしたらいい?これで大丈夫なのか?
脳内では自問自答を繰り返している。
大切な人たちに次々と死が迫る。
いくら想定していた事とはいえ、練習と実戦では全く違う。平静を保つのに必死だ。
しかし、指揮官最高位である自分が取り乱すわけにはいかない。
傍らに置いた師範の刀がそう言う。
……全体を見続けよ。常に冷静であれ
そう心の中で繰り返し続ける。