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雷鳴に耳を傾けて【鬼滅の刃】我妻善逸

第65章 行かなきゃ


……誇りを胸に

善逸は心で繰り返す。


桑島慈悟郎の弟子であることを誇れ。
介錯もなしに腹を切った、その覚悟を心に刻め。
師からもらった多くの愛を胸に焼きつけろ。


そうだ。泣いてる場合じゃない。


善逸は走って小高い場所へ移動する。

太陽の位置と時間とで大体の方角を算出し、桑島慈悟郎の家の方を向く。


正座をして、背筋を正した。


「じいちゃん」

しっかりとした声で呼びかける。


「痛かったよね。苦しかったよね」

背筋を曲げないように、力を込める。


「なのに、俺が泣いてちゃ駄目だよな。ごめんね、じいちゃん」

善逸は視線を遠くに飛ばして語りかける。



「ありがとうございました」

頭が地面につく程に、深々と頭を下げた。


「後は俺に任せて、……ゆっくりお休みください」

地面に目を落としている善逸。
しかし、その目はちゃんと先を見ている。


「俺がきちんと、全部片付けます」


決意を固めて、顔を上げる。
もうその目に涙はない。




『辛いね、悲しいね』

光希の大粒の涙を思い出す。


「……うん、そうだね。辛いし…、悲しいよ……」

一人、呟く。
善逸はそっと目を閉じる。


「……でもね」


善逸を抱きしめて、善逸に共感して、善逸と共に泣いてくれた光希。それにどれだけ救われたか。


子どもの頃、彼が親と離れた時に優しくできなかったと後悔していた彼女。
今度は取りこぼすまいと駆け付け、善逸をしっかりと支えた。


「ありがとな、……光希」

善逸の口元が、少しだけ弧を描いた。


ゆっくりと立ち上がる。

「……獪岳は、必ず俺が討ち取る」

足元がよろける。

「辛っ……おえっ……きっつ……」

転ばないように、近くの木に寄りかかる。


「ふう…、泣かないよ。泣かないけどさ、多少の弱音は吐かせてね……なにせ、俺だから。はは」


そう言って、善逸は小さく笑った。

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