第65章 行かなきゃ

「お前の指示か」

善逸は泣きすぎて混乱していた。


「じいちゃんの切腹はお前の指示か。お前がじいちゃんを殺したのか」

羽織の下から、怒気を含んだ善逸の声がする。
彼の背中を撫でる光希の手が止まる。

光希は何も言えない。


「お前の指示かって、聞いてんだよっ！！」

善逸は、光希の羽織を取り去ってぶん投げる。
その衝撃で光希の手も振り払われ、軽くよろけた。

善逸は歯を食いしばり、涙を浮かべた目で光希を睨みつける。


「……違う」
「じゃあなんで止めてくれなかったんだよ！知ってたんだろっ！！」
「お前の兄弟子が鬼になったことは、……知っていた」
「だったら…、なんでっ……！！」
「ごめん……」

「ごめんってなんだよ！なんなんだよっ！！」
「ごめん」

善逸から責められて、辛そうな顔で頭を下げる光希。


「じいちゃんの切腹は、妥当なのか。隊としては当然の判断なのか」
「…………」
「答えろよ！」
「弟子が鬼になったのなら、育手は……切腹だ」

鱗滝とて、炭治郎と禰豆子に命をかけている。育手が弟子に対して取る責任は、とてつもなく重い。



「……じいちゃんの切腹はあたりまえってか」


善逸は、握った右手を強く地面に叩きつけた。打ち付けられた手の小指付近から出血する。


「………善逸、あのな」
「そりゃそうか。そうだわな」
「…………」
「もういいよ、今はお前の顔見たくねえ」

善逸は膝を抱え込み、頭を埋めてしまった。
完全なる拒絶。


光希はゆっくりと立ち上がると、投げられた羽織を手に取る。
そして、それをまたそっと善逸の頭に被せた。


「………いらねえよ」
「いいから、被っとけ。風邪引く」


そう言って光希は居なくなった。




光希が被せていった羽織を取り払うことなく、善逸は膝を抱えて小さくなる。


頭が思考を放棄している。
心は悲しみでおかしくなりそうだ。

ただ、涙だけが止まることなく零れ落ちていった。