第65章 行かなきゃ
善逸はとてもじゃないが前向きになんてなれないと思っていたが、後ろ向きなりに頑張っていた。
炭治郎や伊之助を介して、仲間と共に修行に励む。
滝修行では踏ん張りが足らず、落ちてくる水の圧に川の中でひっくり返った。
丸太担ぎでは汗で手が滑り、丸太に首を潰されそうになって死にかけた。
………ぐぁぁ!もう無理だよっ!!
えぐえぐと泣きながら、それでも炭治郎が「頑張れ善逸!」と声をかけ続けてくれて修行を頑張る善逸。
伊之助と魚を取り合いながら、仲間と一緒にご飯を食べる。くたくたに疲れた身体と五臓六腑にしみわたる。自分も料理は得意な方だが、炭治郎の焼いた魚はとても美味しかった。
この修行は基本的に男性隊士のみなので、悲鳴嶼の目さえ盗めば皆気が楽だった。
風呂も適当に皆で入るし、どこそこのお茶屋の娘が別嬪だとか、それこそなかなかえぐめの下ネタも平気で飛び交う。
善逸の耳は全て聞こえてしまうので、彼はまた要らない知識を増やしていったのだった。
女性隊士も願い出れば参加出来るのだが、「女子には過酷過ぎる」という悲鳴嶼の意見を光希も汲んだ。
よって、なんとなくこの修行場は『女人禁制』のような雰囲気を出していた。
善逸にとっては、まごうことなき地獄である。
……光希はここの訓練には顔を出さない
その事実は、善逸をしょんぼりさせた。
そんな寂しさを埋めるため、彼は鍛錬の隙間によく手紙を書いた。九割が愚痴であるその手紙を、光希はいつも笑いながら読んでいた。
光希は善逸からの手紙を笑顔でそっと横に避け、もう一通の報告書を手に取る。
眉を顰めて唇を噛む。
手が震える。
「どうか、早まらないでくれ……どうか……」
光希は善逸への返事と、もう一通炭治郎にも手紙をしたためた。
炭治郎への手紙には、「善逸を注視しててくれ」と書く。
「俺が、なんとかするから……」
飛んでいく鴉を見送りながら、祈るように呟いた。