第65章 行かなきゃ
善逸は炭治郎と共に悲鳴嶼の稽古場に移動した。
「ようこそ……我が修行場へ……」
と、甘露寺邸以来に温かく迎え入れられた善逸だったが、その悲鳴嶼の稽古姿に思わず嘔吐する。
悲鳴嶼は岩を吊るした丸太を担ぎ、周りを火で炙られていた。全くもってどうかしている。
鍛錬大好き小僧の炭治郎も、流石に真っ青になっていた。
……やばい。これはやばい。この人絶対にやばい。へたしなくても死ぬやつじゃね?
速攻で善逸の心がへし折れて気絶するも、水の冷たさに飛び起きる。
村田の助言で岩にへばりつき、暖をとりながら母の温もりを思い出して号泣する。
過酷すぎる鍛錬を前に、善逸の情緒は不安定を通り越して完全に迷子だ。
救いがあるとすれば、炭治郎が隣にいてくれること。
そしてここで伊之助とも合流できたこと。
岩に張り付きながら、ぽろぽろと善逸は涙を流す。
「お前が、我妻善逸か」
「は……はいっ」
「………まだまだ細いな」
なんとか自分を保とうとしていた善逸は、悲鳴嶼からのその言葉でまた心がポキッと折れた。
炭治郎や伊之助に比べて圧倒的に筋肉のつかない自分の身体。どんなに鍛錬を頑張っても、筋骨隆々にはなれない。
同年代の男子に比べたら十分逞しい身体なのだが、何せ周りの隊士がごつすぎる。
体質的なものもあるのだろうが、善逸はそんな自分が嫌だった。
「……う…うぅ……」
善逸はまた、ぽろぽろと涙を流す。
鼻水も盛大に溢れている。
「光希と違って、お前はよく泣くのだな」
「……す、すみません……うぅ……」
「悪いとは言っていない。私も、よく泣くからな」
「………へぁ?」
「光希が信じているお前を、私も信じる。……励め」
そう言うと悲鳴嶼は去っていった。