第64章 仲裁
泣かない。
自分には泣く資格なんてない。
両親の死が自分のせいだと責めている光希は、涙を見せずに語る。
義勇との探索で見付けた母親の日記の最終巻。
そこには母の妊娠が記されていた。両親も光希本人も、新たな命の誕生を心底楽しみしているのが読み取れた。
そして、妊娠中期頃、……母は鬼に殺された。
そこで日記は途絶えている。永久に。
自分のせいで死んだのは、両親だけではなかった。
光希はこの事実を知りながら、誰にも言っていなかった。善逸にすら言えなかった。心配させるだけだとわかっていたから……
「俺もさ、その子といっぱい喧嘩もしただろうけど……、ごめんなさいが言えれば兄弟って仲直り出来るじゃん?きっと」
「……兄弟だからこそ、ごめんなさいが難しいんだ」
「ふうん、そういうもんか」
「大人になれば特にな」
「面倒くさ」
光希はまた空を見る。
「でも俺は……どんなに面倒くさくても、兄弟に会ってみたかったよ」
……なあ、お前はどんな子だったんだ?どんな遊びが好きなんだ?食べ物は?父様似?母様似?
涙が溢れないように上を向き続ける光希。
「……きっとお前に似た、器量良しの小賢しい生意気なガキだろうな」
宇髄も、光希の肩に手を置いたまま空を見る。
「縁っつーのは切れないらしいからな」
「……縁」
「生まれ損なったお前の弟妹も、きっとどこかでお前と繋がってる。ちゃんと会えるさ」
「そっか」
「そうだ」
光希は口元に笑みを浮かべる。
宇髄に顔を向けた。
「ああもう、しんどいっ!」
「ははは」
「しんどいっ!うがあぁぁぁ!」
「泣いてもいいんだぜ」
「誰が泣くかっ!」
「冨岡の前ではぴーぴー泣いたんだろが」
「義勇さんはいいの!」
「……なんだよ、面白くねえな」
「うっさい!」
光希は走り出す。
宇髄が付いていく。
「実弥さんの馬鹿!贅沢なんだよ!あんちくしょう!」
「はいはい」
光希は一度だけ、羽織で目元をごしっと拭いた。
「天元さん、話聞いてくれてありがと」
光希が、ぼそっと呟く。
「おう」
宇髄が応えて、二人は山の中を駆けてていく。
空は青く澄み渡っていた。