第64章 仲裁
「…………」
「…………」
しばし無言で抱きしめ合う二人。
「そろそろ……、離そうか」
「………嫌だ」
善逸は腕にぎゅっと力を込める。
「こら」
「ここは師匠の家じゃないからいいだろ」
「誰かに見られるぞ」
「……もうちょっとだけ」
久しぶりの抱擁に、善逸は離すまいとすがりつく。
「友達の援護がないとお前を抱きしめられないとかさ……、俺は本当に情けないな」
「俺の立場を気遣ってくれてるんだろ?情けなくない。辛い思いをさせてごめん」
「いや、いいんだ。たまにこうして顔を見せてくれるだけで俺は十分幸せだよ」
光希もおずおずと善逸の背中に手を伸ばし、きゅっと抱きしめる。
身体がより密着し、慣れ親しんだ感覚に心がほっとする。
「俺も、隠れ家出てからずっと突っ走ってきたから……、少しここでお前から元気もらってもいいか」
「おう」
「へへへ」
善逸の胸の中で、光希が緩やかに笑う。
目を閉じて、静かに善逸の心音を聞く。
何故、こんなにも癒やされるのか不思議に思う。
「…………寝そう」
「おい」
「俺、いつも寝てる時間なの」
「子どもか」
安心感が光希の眠気をくすぐる。
「こら、光希。寝るなよ」
「……天元さん、邪魔しないでよ」
「もう帰るぞ」
「わかってるよ」
光希は善逸の背中に回した手を解く。
確かに周りに人の気配が近付いてきている。
「じゃ、善逸またね」
「……うん」
善逸もしぶしぶ手を離す。
「そんな顔すんなよ」
光希が眉毛を下げて笑う。
「ほら、善逸。ちゃんと顔上げて」
光希は善逸の頬をぺしぺしと叩く。
善逸が俯いた顔を上げると、花の様に笑う光希が目に入った。
「そうそう。そうやって顔を上げてると、きっといいことあるよ」
そう言って、光希は善逸の前髪を掻き揚げ、額に優しく口付けをした。
「ね?いいことあったろ」
「……っ!」
頬を染める善逸に「じゃあな」と笑いかけて、宇髄と共に屋敷を出ていった。
……出たよ、あいつの男前行動。あんにゃろ
善逸は出発のために荷物をまとめている間、ずっと胸のドキドキを抑えられなかった。