第64章 仲裁
「善逸は酷い事してないよ。酷い事してるのは、俺だ」
光希が悲しそうな顔をして、炭治郎に言う。
「え、光希、俺は別に」
善逸が慌てて口を挟む。
「炭治郎、心配してくれてありがとう」
光希はにこりと笑いかけた。
炭治郎は眉を寄せて、何やら考えている。
そして、「光希」と優しく声をかけると彼女をふわりとその腕に抱きしめた。
光希と善逸は一瞬何が起きたかわからずに静止する。
「は??!?はあああぁぁーー????」
我に返った善逸が髪を逆立てて叫び、すぐさま光希を炭治郎から引き剥がして己の胸に抱きしめる。
「ななな何やってんだお前この野郎!は?ちょ、なんなの!怒られて突然阿呆になったんですかーーっ?これ、光希だよ?わかる?俺の!俺のなの!」
涙を浮かべて大声でまくし立てる善逸。
「ま、待て!落ち着け善逸、声がでかいっ!」
抱きしめられながら、善逸の胸を叩いて叫びを止めようとする光希。
「落ち着けるかよ!ふざけんなこのデコ助!なんで光希にだけ手が早いの!本当もうなんなの!!友だちやめるぞ!!うわぁぁん!!」
取り乱した善逸は光希をぎゅっと抱きしめて泣き出した。
「落ち着けって!……こんの馬鹿っ!」
光希が善逸の鳩尾に一発入れると、「ぶえっ」と声を上げて善逸は黙った。
それを見ていた炭治郎も青ざめる。
「……ぐぅっ」
「はあ、大声で叫ぶな、馬鹿」
「いってえ……何すんだ」
善逸は呻きながらも光希を離さない。
「炭治郎、ありがとな」
「!!?何言ってんだ、光希」
「ごめんな善逸。こうでもしなきゃ善逸は光希に触らないだろうと思って」
「……!」
そこでようやく善逸も炭治郎の行動を理解した。
「何があったのかは知らないけど、俺は二人が仲良くしてる方が嬉しいよ」
炭治郎は天使のような微笑みを浮かべて部屋を出ていった。
「……やっぱりあいつ、お前の従兄弟だわ」
「なかなかの策略家ですな」
光希が誰かに抱きしめられたら、善逸は必ず光希を取り返して抱きしめる。
「してやられた」
そう言って、善逸は目を閉じて光希の肩口に顔を埋める。