第63章 恋慕
「……いいのかよ、あんなこと言って」
善逸が頬を染めて光希に聞く。
「いいんじゃね?本当の事だし」
光希は笑う。
善逸がまた手ぬぐいを絞って光希に渡す。
「あいつ、絶対お前のこと好きじゃん」
「だろうな」
「だろうなって……」
「さて、もう行かねえと。これさ、腕に縛ってくれる?冷やしながら軍議する」
光希は善逸に腕を出し、善逸は彼女の細い右腕に手ぬぐいを緩めに縛ってやる。
「きつくないか?」
「大丈夫。ありがとう」
光希は立ち上がる。
「お前が心配することは何もない。俺の心は決まってるから」
「……うん」
「それより、これからの鍛錬を心配しろ。ここの鍛錬はきっついぞー。ははは」
「まじかよ」
「大まじ。初日の稽古ん時は立ち上がれなかったよ。まあ俺もたまにこうして来るから。死なないように頑張れ!」
そこへ不死川が現れる。
「手当ては済んだかァ」
「はい。あ、善逸借りてました。俺の指示でここに居たので怒らないでくださいね」
「……よォ、来やがったなァ。ボコボコにしてやるよォ」
「よ、よろしくお願いします」
「大丈夫だ、善逸。お前は強い。逆に実弥さんをボコってやれ!」
「いい度胸だァ」
「ひぃっ……俺、何にも言ってませんっ!光希、やめてよっ……!」
青ざめて震える善逸と、あははと笑う光希。
そして、そっと耳元に口を寄せて、善逸にしか聞こえない声で囁く。
『お前は俺の選んだ男だから大丈夫』
少し高めのその声に、頬が熱くなる。
「テメェら、いちゃついてんじゃねえぞ……」
「あはは。ごめんね、実弥さん」
「お、俺、準備してきます!」
善逸は慌てて駆け出した。
「……あいつも大変だなァ」
「そうですね。辛い思いをさせていると思っています。俺のせいで……」
「テメェのせいじゃねえだろォ」
「…………」
「こんなことで根をあげるようならそれまでだァ。テメェに釣り合う男じゃねェ」
「はは、厳しいなぁ、実弥さん。あ、手桶あのままでいいよね。どうせ皆も怪我するでしょ」
光希は苦笑いをしながら、右手に巻かれた手ぬぐいを見る。
「釣り合うも釣り合わないも……、俺はあいつじゃないと駄目なんだ」
そう言うと、光希は皆の待つ部屋へと歩いていった。