第63章 恋慕
「光希!」
「ゲホッ……はぁ、はぁ、善逸?」
「おい、何してんだよ、大丈夫か」
「待て、来るな!」
近寄る善逸を制して立ち上がる光希。
目は道場の中に向けたままだ。
「左!」
すぐさま指示を出す。
道場の中で、左に展開している隊士が不死川に斬りかかる。
「背後!」
背後の隊士が斬りかかる。
善逸は気付いた。
光希はここへ鍛錬をしに来ているのだ。
光希は庭を蹴り、道場へ戻って指示を出しながら自分も参戦する。
久々に会ったというのに、自分のことはまるで眼中にない。善逸はズーンと落ち込みながら、道場の中を見る。
光希が十数人の隊士たちと共闘している。
動きが凄まじく良いので、彼らも実力者なのだと一目でわかる。しかし、それでも不死川の撒き散らす風に大苦戦だ。
光希も彼らも何度も風に巻き上げられて吹っ飛ばされている。それでも諦めずにまた立ち上がる。
そんな中、「光!背後!」と光希が指示を出す。
光?と不死川は疑問を抱くが、背後に向けて意識を飛ばす。が、動いたのは左の隊士。
「なんだとォ?」
咄嗟に技を出す向きを切り替えるが、僅かに隙が生まれた。
「参ノ型!!流流舞い!!」
その隙をついて、光希が逆側から高速で飛び込んで、木刀を振るう。
不死川の腹に一撃を入れた。
一瞬の、静寂。
その後、「うおおおおーーーっ!!」という歓声。
「よっしゃぁーー!ついに実弥さんから一本取ったぞー!!」
「やったーー!!……ゲホッ」
「っしゃぁーー!!……オエッ」
皆で集まって飛び上がって喜ぶ。
が、喜んだ後に、皆でバタリとひっくり返る。ぜぇぜぇと盛大に息が上がっている。
「ちっ……この嘘付き野郎がァ」
「はぁ、はぁ、余裕かい。くっそ」
「テメェの一撃なんざ蚊に刺されたようなもんだァ」
「むむ……そこが俺の課題だな。ねえ、やっぱり薙ぎ払うより突きの方がいいと思います?」
「突きじゃ首は斬れねえだろォ。払いで良いから、こう、押し込む感じで体重をかけて斬り込めェ。威力が上がるからよォ」
光希はもう立ち上がり、不死川に指導してもらっている。
不死川は口調とは裏腹に、案外丁寧に教えている。