第63章 恋慕
善逸は伊黒の稽古を突破した。
終始ネチネチと言われたが、必死に頑張ってくらいついた。「お前に光希の恋人でいる資格があるのか」と挑発されたからだ。
……そこは。そこだけは、引くわけにはいかない。資格がないとは、言わせない!
浅いけれどなんとか腕に剣を当て、「ふん」と記章を投げてよこされのだった。
少し時間はかかってしまったが、やっと不死川の稽古まで来た。
稽古初日である。柱稽古は昼からなのだが、善逸はだいぶ早めに来た。心の準備をする時間が必要だと思ったからだ。
……不死川さんか、怖え
面識があるだけに、足がすくむ。
ここまでにいろんな柱に散々標的にされてきたので無理もない。
道場からは爆音と叫び声が聞こえている。
善逸は、ひぃぃ……と震えるが、ふと聞き覚えのある声を耳が捉えた。
聞き覚えどころじゃない。この声は、自分が求めて求めて求めてまくっている、あの子の声だ。
「………光希っ!」
すくんでいた足が勝手に動き、とてもじゃないが入れないと思っていた恐怖の屋敷に自ら飛び込む。
庭から道場の方へ走って行くと、開け放たれた出入り口から光希が叫び声と共に吹っ飛ばされてきた。
隊服ではなく、千代の作った稽古着を着ている。
光希は受け身を取りそこねたのか、背中を打ち、「ぐぅっ……!い…ってえ……!」と苦しんでいる。
涙の別れの後の再開は、ロマンチックなものではなく、なんとも二人らしい大騒動の中だった。