第62章 最後の夜
光希と義勇が去っていく足音。
それが聞こえなくなったとき、善逸の足から力が抜けてぺたんと玄関に座り込んでしまった。
………あれ、俺、どうした
そのまま床を見ながらぼんやりとする善逸。
………足、震えてる
動けない。
………何してんだ、俺。鍛錬、行かなきゃ
動けない。
思考と身体の動きが一致しない。
………光希は、笑顔で歩いていったのに
『善逸、頑張ろうなっ!!!』
光希の言葉を思い出し、ふらりと立ち上がる。
よろけて壁にドンとぶつかって寄りかかる。
「ふぅ……」
よろよろと壁を伝って歩く。
「鍛錬に行かなきゃ……鍛錬に……」
焦点の合わないまま、そう呟く。
そのまま導かれるように、ふらりと光希の部屋の戸を開く。
綺麗に片付けられた部屋に心が痛む。
部屋の隅に数点の荷物が置かれていて、そこに少しホッとする。
何かに呼ばれた気がして、ふと机の上を見た。
その瞬間、善逸が息を飲む。
ふらふらと机の前に近寄り、また座り込む。
手も足も震えていた。
そこには、金色に縁取られた小さな写真立てが置かれており、華やかに笑う幼き日の光希がいた。前に光希が善逸にだけ見せてくれた、あの写真だ。
止まっていた呼吸が戻ると同時に、涙が一気に溢れる。
「………ううっ…、くっ……うわぁぁぁ……」
光希は善逸に、歌と笑顔を残していった。
善逸がどれだけ泣いても、写真の光希は朗らかに笑っている。決して揺らぐことのない彼女の明るい笑顔を、善逸は手に入れた。
写真立てを胸に抱きしめて、善逸はうずくまって泣く。泣いて泣いて泣きまくる。
泣きすぎて、おえっとえずく。
涙も鼻水も全部出しながら慟哭する。