第62章 最後の夜
「善逸が主旋律ね。俺が合わせる」
「いいぜ」
「『行かないで』は俺だけ、『大丈夫』は善逸だけな。『そばにいて』『そばにいる』は重ねよう」
「え、それ、逆じゃね?俺が『行かないで』じゃねえの?」
「いや、逆じゃない。これでいいんだ」
「? 別にいいけどさ」
それぞれのソロを決める。
だいたいの音を決め、二人で練習していく。
こうしよう、ああしようと音を変えながら何度も何度も歌う。繰り返しながら歌詞を落とし込んでいく。
すると善逸の心境に変化が起こり、落ち着きが出てきた。
「……お前、本当に策士。怖えわ」
善逸がそれに気付き、笑いながら小さく呟く。
『大丈夫 そばにいる』
本来なら光希の気持ちに寄り添ったこの歌詞を、『行かないで』の返句として敢えて善逸に何度も歌わせることで、離れても大丈夫という気持ちを彼に染み込ませていく。
次の『二人で繋いだこれまでを これからに変えて』に、ゆっくりとした高音の美しいメロディーをつけて希望へと導く。
即席の歌詞とメロディーではあるが、善逸を落ち着けるには十分だった。
「……光希。俺たちは、離れてても大丈夫なんだな」
「そうだよ。心はずっと一緒だから」
「今までも、大丈夫だったもんね」
「うん。俺たちは絶対にはぐれない」
善逸は歌詞の書かれた紙を手に取って見つめる。
「いい歌詞じゃん」
「そうだね」
「『おっぱいの歌』よりは僅差で劣るけど」
「あはは、懐かしいな。俺たち史上最悪の歌!」
「なんだと!あれは俺のおっぱいへの情熱を歌い上げた傑作だ!作詞作曲も俺だ!」
「ぶははは!」
二人は『おっぱいの歌』を歌って「くだらねえーーー!!」と笑い転げる。
喋って、歌って、笑って。
いつもの二人に戻っていった。