第62章 最後の夜
「……歌」
「え…?」
「歌、作ろう。善逸」
光希が提案をする。
「俺たち、寂しいや辛い時は歌をうたってきたろ?」
「歌か」
「ああ。新曲だ。今のところへんちくりんなのしかないもんな。……俺たち、恋人同士で歌うのは作らなかったから、一曲作ろう。愛の歌だ!」
光希は湯呑を持って居間に戻る。
灯りをつけて、机に向かう。
「まずは歌詞だな。なんか出して」
「なんかって……」
「今、思うこと。なんでも」
「『なんで、離れなきゃいけないの』『俺は離れない』『いつまでも一緒に居たい』……」
善逸は想いを口で紡ぐ。
「いいね。あと、なんかさっきいい事言ってたな。えっと……『俺だけの光希に会えなくなる』だったかな」
光希は歌詞にするという名目で、善逸の想いを改めて拾いあげていく。彼の気持ちを全て受け止めるのと、彼自身が自分の気持ちを整理するために。
「んー…歌ってどうやって作ってたっけ?」
とりあえず言葉を書き留めている光希が、鉛筆を持ったまま首を傾げる。
「だいたいいつもお前が適当に作ってたぞ」
「鼻歌の延長線だな」
むむ…と悩みながら、やはり歌詞に着手する。
善逸が言葉を紡ぎ、光希が文字数や語感を変えていく。
月の見えない夜の闇
あなたと紡ぐ 愛のうた
求めるものはただ一つ
あなたと共に いつまでも
行かないで そばにいて
大丈夫 そばにいる
二人で繋いだこれまでを
これからに変えて
わたしだけのあなたを
今は見えない 月の光に託して
「……こんな感じかな。即席だからあちこち言葉が微妙かもだけど。歌いにくかったらどんどん変えていこう」
「おお、凄えな」
「あはは、別に凄くないよ。次は音階だね」
なんとなくの歌詞が出来て、二人はメロディーを鼻歌で作っていく。
光希が歌うと、善逸がハモって合わせる。
子どものときの歌よりも、お洒落なメロディーをつけてゆったりとした優しい曲調に仕上げていく。伸びやかで癒やされる音律に、二人の声が重なる。