第62章 最後の夜
「………最後」
「そう。だから、ちゃんと話しておきたい。暗くなるのは嫌だけど、言いたいこと全部言っておきたいんだ。言葉も、こっちでいかせてくれ。お前とずっと過ごしてきたこの言葉で」
「何で、最後なんだ」
「俺はもうここへは戻ってこない」
「たまには帰ってきてよ」
「……ごめん」
「……っ!俺を第一義に考えるんじゃなかったのかよっ!俺より優先させるものはないって言った!……そんなに仕事や隊が大事かよ!帰って…来られないくらいによ……」
「俺はお前が何より大事だ。それはずっと変わらない」
「なら、」
「ごめん……でも、誰も死なせたくねえんだよ」
「それなら、俺が一番じゃねえじゃん!一番優先なら、帰ってきてよ!毎日!俺の…側にいてよ……」
「ごめん」
「……最後だから、昨日俺とまぐわいたかったの?最後だから、髪の毛くるくるにして、ご馳走作って、三つ指ついて……俺を喜ばそうとしたの?一人で勝手に決めて、ざっけんなよ!」
「……ごめん」
「勝手すぎるよ!」
「……ごめん」
「俺の気持ち、考えた?」
「……考えてないな、ごめん」
「ごめんごめんって、謝ればいいって思ってるの?」
「思ってないよ」
善逸は思ってることを次々にまくしたてる。
昨日からずっと思っていたことを、吐き出し続ける。
「それから、えーと…えーと……」
だが、早速に尽きた。
「………え?以上か?……少なくね?」
「ち、ちげえよ!まだいっぱい文句はあるんだ!……っ、まだ…あんだよっ……」
光希は茶器から湯呑にお茶をつぐ。
善逸の側に一つ置いて、自分の側にも置いた。
湯呑を善逸のところに置く際、善逸の達磨の手拭いも一緒に置いてやる。
「この家でお前と過ごせて、楽しかった」
光希は両手でお茶を持って一口すする。
温かいお茶が身体も温めてくれる。
「子どものころ、二人で隠れ家作って遊んで、それがこんなに立派な家になった」
善逸は手拭いを目に当てる。
肩が震え始めた。
「初めてこの家に入ったとき、わくわくしたなあ。自分たちの家なんてさ、考えた事もなかったからな。夢みたいでさ……あ、自分たちっつーか善逸の家なんだけどね」
ははは、と光希が笑う。
「こんなの、もはや奇跡だろ。なあ」
「……うんっ…、っ…、」
涙声で善逸が返事をする。