第62章 最後の夜
二人は朝ご飯を食べる。
光希は余ったご飯でおにぎりを作って善逸に持たせる。
「伊黒さんのところは、ご飯がないはずだから」
「流石、隊内事情に圧倒的に詳しい嫁だな」
「あはは」
「朝まで仕事してたんだろ?ゆっくり寝ろよ。体調もまだ回復してないし。なにかあったら俺か冨岡さんに連絡してな」
「はーい」
「夕方には帰れるよね」
「頑張れば」
「……頑張るよ」
「いってらっしゃい」
「いってくる」
二人は玄関で口付けを交わす。
笑顔で善逸は家を出ていった。
光希は自室に布団を敷いて寝る。
目眩もだいぶ良くなった。
呼吸を使いながら寝て、回復していく。
夕方前少し前に起きて、晩御飯の支度をする。
あとは温めるだけという所まで準備して、善逸の帰りを待つ。
……妻じゃん
一人、頬を赤らめる。
……正直、俺が誰かに嫁いで妻になるとか、想像が出来ないな。母親なんて、もっと想像できない……
台所で考え事をしていると、善逸の気配がする。
走って玄関に出迎えにいく。
「おかえりなさい」
「……おう。ただいま」
光希は善逸の刀を受け取る。
にやける善逸。
「……妻みたい」
善逸も先程の自分と同じことを考えていたみたいで、光希も笑う。
「おかえりなさいませ、旦那様」
刀を傍らに置き、手を付いてお辞儀する光希。
「わあ、若奥様だ。俺は幸せだな」
善逸がわしゃわしゃと光希の髪を撫でる。
「可愛い」
そう言って、光希の側に座って口付けをした。
「お腹空いた?ご飯にする?」
「え!作ってくれたの?ちゃんとしっかり寝た?」
「寝たよ」
「腹ぺこぺこ!食べる!」
「あはは、じゃあ温めるから着替えたらおいで」
「うん!」
善逸は鼻歌混じりで部屋に行き、着替える。
その日の晩御飯は豪華だった。
数少ない小鉢をフル動員し、品数も多く、色とりどりだ。
煮物にしても、人参が紅葉に切られていたりと、とても手が込んでいた。
「……す、すげえ」
「本気出してみたよ、えへへ」
「本当に何でも出来るんだな……」
「そんなことないよ。母ちゃんに料理教えてもらったの」
「なるほどな。いつでも嫁にいけるな!」
「そうだね、ははは」
二人は手を合わせて食べ始める。