第62章 最後の夜
翌朝、善逸が目覚めると台所からいい匂いがした。
……焦がしてなきゃいいけど
そう思ってクスッと笑いながら、二度寝しようと布団にくるまる。
しかしもうあまり眠くない。
心が光希との触れ合いを求めている。
むくりと起きて、布団をたたむ。
うーん…と伸びをして、顔を洗いに行く。
冷たい水で顔を洗うとなんだかしゃっきりとした。朝は苦手なのに不思議だなと思う。
「おはよう、光希…、え!」
「おはよう、善逸」
料理をしている光希に声をかけて、善逸が驚く。
「光希……、それ、」
「えへへ、どう?」
光希の髪は、毛先がくるくると巻かれていた。善逸が光希の元へ走り寄る。
「可愛いー!!」
「ふふ、ありがと。夜、暇だったから巻いてみた」
「えー!このままお出かけしたいねえ」
「残念ながら無理だね。私は寝るし、善逸は鍛錬でしょ。見せたかっただけだよ」
「……ちぇ」
「ま、鍛錬は別にどっちでもいいけどね。強制じゃないし」
「行くよ。俺、強くなりたいし」
善逸は、光希の髪を指でもてあそぶ。
「あれから、だいぶ伸びたね」
「そうだね」
「腰まで伸びたら……覚えてる?」
「はて?」
「もうっ!我妻光希になるんでしょ!」
「あはは」
「覚えてるくせに」
「……もし私の代で無惨を打ち損じたら、」
光希がふと考え始める。
「私は如月家を継いで、竈門家との関係を継続していかなきゃならない」
「………」
「その場合は……」
「………その場合は?」
「善逸が如月善逸になって」
「……は?」
「婿養子」
「い、いいけど」
善逸は「お前と結婚は出来ない」と言われると思って身構えていたので拍子抜けする。
「え?いいの?」
「別に。俺の名字なんてあってないようなもんだし。継ぐ家もねえしな」
「愛着は?思い入れとかないの?」
「……ねえな。画数多いし、読み辛えし」
「いや、それ、竈門さんや悲鳴嶼さんに謝れよ」
「確かに。嘴平さんにもだな」
二人でクスクスと笑う。