第8章 山の中で
ふー……と大きく息をつく善逸。
「光希、水持ってる?」善逸がそう聞くので水筒を渡す。彼はここまで走ってきたようだ。
水を飲み「ありがと」と水筒を返す善逸。
光希はまだ理解が出来てない。水筒を無言で受け取り、善逸を見つめている。
「何?なんだよ、そんなに見つめて。俺がそんなに男前か?しばらく見ないうちに格好良くなっちまったかな」
てっきり「寝言は寝て言えこの寝ぼけ丸がっ!!」と勢いよく返ってくると思ったが、返ってきたのは戸惑いながらの「いや……男前では…ない…」という、それはそれで失礼なやっちゃなぁ、というものだった。
「お前……なんで…ここに…」
「だから、これ」
善逸が肩に止まる鴉を指差す。
「光希が泣いてる、すぐ来いって言われて。
俺、仕事帰りでわりと近くにいたんだ。だから来た」
義勇と違ってちゃんと説明してくれる善逸。
その懐かしさと安心感とで、足の力が抜け、草の上に座り込む。
「お、おい」
慌てて善逸も側に座る。
「……たかった」
「え?」
「…会いたかった……!」
「光希……」
「会いたかった!会いたかった!会い、た、かった!!……っう、くっ、……ひっく…寂しかった……」
草を握りしめて光希はポロポロと涙を流した。
善逸はそっと光希を抱きしめた。
「俺もだよ。会いたかった、光希」
「善、逸っ…うわぁぁぁぁぁん……」
「よしよし」
光希は善逸にしがみついて大いに泣いた。
「何かあったのか」と聞く善逸に、涙の落ち着いた光希は全て話した。
岩に並んでもたれながら、ぽつりぽつりと話す光希の話を善逸はしっかり聞いてくれた。
「ごめんな、善逸。お前も今、大変なんだろ。炎柱のこと聞いた」
「ああ、……うん、まあな。正直、俺らも自分の無力さに打ちひしがれてるところだ。特に炭治郎がな……なかなか立ち直れない」
「そっか……」
申し訳なさが先に立つ光希。やはりこんな時に会うべきではなかったと反省する。
それを音で敏感に察知する善逸。
「だから……俺もお前に会いたかったから、丁度いいんだ、気にすんな。俺もお前に甘えさせてもらうわ」
そう言って、善逸は隣に置かれた光希の手を握る。