第8章 山の中で
その日の夜、一人山の中で、ごつめの岩の上に座ってぼーっとしていた。
義勇の言葉の意味を考える。
俺、甘ったれてたのか……?
知らず知らずのうちに?教えてもらえること、助けてもらえることが当たり前になってた?
全て教えたって言ってた……
じゃあ未だにへっぽこな俺はなんなんだ?才能ないのか?教えるのに疲れたのか?
わからない。言葉が足らなさすぎる。
わかっているのは、もう稽古をつけてもらえないということ。任務にも同行させてもらえないだろう。
じわりと涙が溜まる。
泣かない。泣くもんか。泣いてたまるか。
歯を食いしばり、天を見ると曇っているのか何も見えない。
こんなときはあいつに会いたくなる。
俺を唯一泣かせてくれたあいつに。
だが、数日前、炎柱の訃報が届いた。彼らはその場にいたというから、今は悲しみに打ちひしがれているだろう。
そんな中、会いに行けるわけがない。それこそ甘えだ。
鴉が心配そうにバサッと側に舞い降りた。
「我妻善逸に会いにいくか」
「……いい」
「無理、するな」
「あいつはあいつで今、大変なんだよ」
「だからこそ、だ」
「いい。甘ったれだと怒られたところだぞ」
鴉は溜息を付いて、飛び去っていった。
光希は立ち上がって素振りを始める。
頑張ることしかできないんだ俺は、と考えながら。
一、二、三……
任務の疲労がのしかかる。
刀を握りしめすぎて、手が痛い。呼吸が乱れているため、息があがる。
二十、二十一、二十二……
頬に涙が伝う。
何なんだよあの人、どんだけ頑張っても全然背中にも手が届きゃしねぇ。もっと教えろよ馬鹿野郎。
六十四、六十五、六十六……
「くそっ……」
光希がそう呟いた時、素振りをしている手をパシッと止められた。
全く気配に気付かなかったので、驚く光希。
目の前には息を切らした善逸がいた。
「…………は?なんで…」
信じられずに目を見開く。夢か?と思う。
だが、己の手を押さえる彼の手の温かさに現実だとわかる。善逸の肩に、ドヤ顔の鴉が止まる。
「なんでって、お前が泣いてるって聞いたから」
そう言うと善逸は光希の手からそっと日輪刀を取り上げ、腰の鞘に納刀する。
「頼れっつったろ、馬鹿」
息を整えながら、善逸は自分の袖で光希の涙を拭いた。