第60章 判断
「わかんねえ……」
善逸は頬を赤らめながら目をそらす。
こんな風に誘われる事も初めてだし、とにかく今は我慢をしなければならないと思っていた。
頬からスッと光希の手が離される。
「………そう。じゃあ、もういい」
光希はまたチャプンと音をさせて肩までお湯に浸かり、湯船の出来るだけ端に行って身体を離す。
「え……」
「……いいよ、もう」
「ちょっと、光希、」
「温かいねー」
光希は善逸に背を向けて膝を抱えてちょこんと座る。
「や…、あの、拒否ったわけじゃなくてね、俺は光希の身体が心配で」
なんとなく光希が拗ねている気がして、慌てて善逸が声をかける。
「わかってるよ」
「………俺もね、抱きたいのよ?」
「そうだね」
「……怒ってる?」
善逸が後ろから光希を抱きしめる。
「怒ってないよ。でも……、」
「……でも?」
「選択を一度間違ったら、もう二度目はないこともあると知れ」
そう言って光希は自分の膝をぎゅっと抱き、身体を触らせまいとガードする。
突如、青ざめる善逸。
「え、」
「…………」
「光希?」
「……なに?」
「二度目はないって……」
「そのままの意味。だから、触らないで」
柔らかな声でそう言われると、光希はザバッと湯船から上がり、身体を洗い始めた。
善逸は唖然としながら、身体を洗う光希を見る。
音を聞くと、少しの寂しさ。
「……身体、大丈夫なの?」
「さあね」
「……出来るの?」
「どうだろう。そんなのやってみなきゃわからないよ」
「でも、途中で具合悪くなったらさ」
「だから!もういいんだって、悩まなくて。しない。決定。善逸が選んだんでしょ?二度目の選択はなし」
「………俺は、わからないって言ったんだ」
「同じことだよ。自分の意志が無いのは、やりたくないのと同じ。人は何をするにしても意思を持たなきゃ駄目」
「………」
「誰かがこう言った、ってのは参考しかならない。状況を踏まえて自分で判断していかなきゃ」
「……自分で、判断」
「そう。自分がどうしたいか。……そして、判断したら責任を持つ」
光希は身体の泡を洗い流す。