第59章 血
玄関で義勇を見送った後、光希がよろける。
善逸が慌てて身体を支える。
「お、おいっ、光希!大丈夫か?」
「あは…は、……っ、ちょっとクラッとしただけ」
「よくここまで来れたなぁ。結構距離あったろ」
「………まあね」
言い淀む光希に、ピンとくる善逸。
「…………おんぶ?……それとも抱っこ?」
「………抱っこ」
「ふーん」
「はぁ……本当に、こういう時だけは勘がいいよね」
「光希に関してはね」
そう言うと、善逸もひょいと光希を抱きかかえる。
「歩けるよ」
「いいのっ!大人しく運ばれるのっ!冨岡さんより、ひょろい腕で申し訳ありませんねえ」
「……拗ねないでよ」
「拗ねてないもん」
ムスッとしながら善逸は光希を居間へ運ぶ。
部屋にそっと下ろし、布団を出す。
「寝るんだろ?」
「うん、出来れば。ごめんね、久しぶりに会えたのに……」
「いいよ。ゆっくりおやすみ」
善逸が敷いてくれた布団に這い上がる。
貧血でとてつもなく眠い。
「夕方に起こして」
「わかった」
そう言うと、光希は目を閉じた。
その顔はとても青白く、善逸はゾッとした。
先程、なんだ抱けないのか……などと残念に思った自分を脳内でぶん殴る。
光希の隣に寝転んで、彼女の髪をそっと撫でる。
光希が少し口元に笑みを浮かべたので、起こしてしまったかと手を引くが、目を開けないのでまた撫でる。
光希はまた、嬉しそうに微笑む。
……可愛い
こんなちょっとした幸せが堪らなく愛おしい時間のように思えて、善逸も光希の布団に潜り込む。
光希の存在が、ただひたすらに嬉しい。
毎日の鍛錬の疲れと光希の温もりとで、善逸も吸い込まれるように眠りについた。