第59章 血
夜に起床すると、鴉からの手紙が届いていた。
善逸からのもので、記章が揃ったから帰ってきて、という内容だった。
踊るような彼の字に、笑みが溢れる。
明日の昼頃に義勇の護衛付きで帰宅する旨を手紙に書いて、善逸に飛ばす。
目眩はだいぶ落ち着いたので、仕事を再開し、報告書を読んだり悲鳴嶼と軍議をしながら徹夜をした。
そして昼少し前に義勇と二人で屋敷を出発する。
ふらふらと歩いていると、ふわりと抱きかかえられる。
「え、ちょっと、義勇さんっ!」
「走るぞ」
「待ってくださ……っ!」
そのまま林の中を走り出すので、びっくりして思わずしがみつく。
がっしりとした腕。
高速で走りながらも腕の中は安定している。
そしてちらっと見上げると、彫刻のように整った顔。
……おお。こりゃ、眼福だわ
クスッと笑う。
「何がおかしい」
「いや、男前だなって思って」
こんな男前を間近に見てもときめかない自分に笑えてきた。
「つくづく、男は顔じゃないんだなぁ」
「……我妻に失礼だ」
「ぷぷっ。俺、何も言ってませんよ?義勇さんこそ善逸に失礼ですよっ!あいつのどんぐり眼も可愛いでしょ?」
「大人になれば顔は変わるぞ」
「ごつくなったら嫌だな……」
全く息の切れない義勇。
平然と走り続ける。
宇髄の時も思ったが、柱の凄さに驚く。
あっという間に隠れ家に着いた。
「ここらで下ろしてください」
家から少し離れた所で頼むと、そっと下ろしてくれる。
「お手数おかけしました」
「問題ない」
「ありがとうございました」
お礼を言って、二人でゆっくりと歩いていく。
音でわかったのか、善逸が門の外へ出てきた。
「光希っ!お帰り!」
「善逸、ただいま」
笑い合う二人を余所目に、すたすたと門をくぐって家に入っていく義勇。
「冨岡さんっ?!」
「邪魔する」
善逸は慌てて義勇を追いかける。
そこで善逸は、この家が義勇の持ち家だったことを思い出した。
義勇はそのまま使われていない部屋に行く。そこに置かれたままの自分の荷物を確認した。
「この部屋は使ってないんです」
「そうか。……我妻、話がある」
「はい。あ、客間にどうぞ」
走れない光希は、ゆっくりと玄関で草履を脱いでいる。