第59章 血
「専門外のことは、なかなか当てるのが難しいな。勉強不足です」
「ちなみに、光希さんが言っていた『願添散薬』は細胞破壊の薬になりそうです。あなたの指摘もあながち間違ってなかったですよ」
「あはは、よかった。面目躍如ですね」
しのぶが採血パックを見る。
「このくらいにしましょうか」
「え、まだいけますよ」
「いえ。月役が近いですよね。ここまでです」
「そうですか……」
針を抜いて止血される。
「増血剤を飲んでください。一週間は安静に」
「……はあい」
「暴れたら倒れますよ?冨岡さん、見ててあげてくださいね」
「わかった」
「ぐっ……」
止血を代わり、自分で腕を押さえる。
「しのぶさん、また顔を見せに来てくださいね」
「……はい」
「俺には会わなくてもいいから、せめて……」
「はい。また来ますよ」
しのぶは作業の手を止めずに返事だけをする。
その美しい横顔を、光希は見つめる。
これが、最後かもしれない。
その思考がよぎる。
「しのぶさん。俺は……あなたが怖かった」
「でしょうね」
「その笑顔が本当じゃないから……、いつも感情を出さないから、思考がわからない」
「………」
「でも、本当に一生懸命で優しい人だってのはわかる」
「………」
「蝶屋敷で、沢山お世話になりました。あなたがいなかったら俺も仲間もとうに死んでいた。感謝しております」
光希は深々と頭を下げる。
作業を終えたしのぶが光希の方を向く。
「光希さん。私もあなたが怖かった」
「かも、しれませんね」
「ひねくれたりふざけたりもするけど、根は本当に素直で感情が豊か。怒ったり笑ったり、その振り幅の大きさにいつも驚かされました」
「多々ご迷惑をおかけしました」
「私たちは、だいぶ違いますね」
「そうですね」
「ないものねだりでしょうか」
「だと思います」
「私はあなたが羨ましいです」
「俺もあなたが羨ましいです」
「ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございました」
二人のやり取りを、義勇が見守る。
「では、失礼します」
「よろしくお願いします」
帰っていくしのぶを、義勇と二人で見送った。