第59章 血
人の気配がして、光希が目を覚ます。
「起きたか」
「……義勇さん。今は」
「昼過ぎだ」
「うわぁ……寝すぎた」
光希がのっそりと起き上がる。
「おはようございます」
「しのぶさん、おはようございます。お久しぶりです」
光希は布団の上で姿勢を正し、改めて二人にお辞儀をする。
ゆっくりと顔をあげて、二人の様子を伺う。
「あの……お二人は、ゆっくりされましたか?」
「ええ。お気遣いありがとうございます」
しのぶがニッコリと笑う。
ちらりと義勇に目を向けると、義勇が小さく頷いた。
「では、採血をお願いします」
「はい」
「限界まで採ってください。じゃんじゃんと」
「それであなたが動けなくなったらいけません」
「俺は寝れば治ります」
「駄目です」
しのぶが光希の血管に針を刺す。
「……なら、また採りに来てください。血を増やして待ってます。ね?」
「そんなに頻繁に来られませんよ」
採血が始まり、光希の血がゆっくりと減っていく。
「俺の血、使えそうなんですね」
「はい、期待以上でした」
「ずっと薬飲んでないのですが」
「飲んでたらもっと効果があったのかもしれません。ですが今の状態でも、鬼の細胞を戻す効果がありました」
「有効な薬はどれでしたか?」
「『匂出香』でした」
「『においだしこう』……?」
自分が思っていたものと違っており、光希は首を傾げる。
「……なるほど」
少し考えた後、光希は呟く。
「前の二文字は逆さに読むと、鬼。初めの『に』を払って、追い出し……。鬼を追い出す香……人間に戻す薬か」
「流石ですね。速い」
「いえ、気付かなかった。そうか。ちぇ」
少し悔しそうな光希に、しのぶはくすっと笑う。
「あと……これは、私の思いですが」
「……?」
「あなたは『に』を払うと言いましたが、私は『荷』を下ろす、のだと思います。鬼になってしまったという業。それは人が背負うにはあまりにも重すぎる。鬼を追い出して、その荷を下ろさせる薬。それが『匂出香』だと思います」
「なるほど。……その薬と俺の血で、禰豆子が荷を下ろせるといいな」
「はい」
二人で目を見合わせて笑う。