第58章 光
「炭治郎と俺が運命の子なら、あいつと俺は出会うべくして出会ったんだろ?親や家の力が大きく働いてさ。俺たちの意志とは違うところで俺とあいつは出会った。いわば決まりごとだ」
「うん」
「でも俺とお前は違うんだ。そういうのじゃないところで出会ったんだ。自分たちの力で」
「……うん」
「で、自分たちだけで絆を深めてったんだよ。こっちの方が凄くね?運命的ってのはむしろこっちの方だと思わないか?」
「……そうかもな。ふふっ」
光希の得意技である思考のすり替えを行う。やっと善逸に笑顔が戻り、ホッとする。
「決まりごとと、自己開拓。どっちが凄いことなのかわかんねえけどさ。……俺の性格上、自分で選択をした事を大切にしたい。誰かに決められたことじゃなくてな。だから……」
光希は善逸の耳元で、彼ににしか聞こえないように小さな声で呟く。
「……だから私の一番は、絶対に善逸なんだよ」
身体を離し、頬を染める善逸を覗き込みながら、「わかったか?」と聞く。
善逸は、プイと顔を反らして「……わかったよ」と言った。
「よし。ならば、俺の特別な善逸くんに、特別なものを見せてやろう」
「特別なもの?」
光希は胸ポケットから小さな本のような物を取り出した。手のひらサイズのその本は、薄くて少し古びていた。
悪戯っぽく笑い、善逸に渡す。
善逸は首を傾げながら受け取り、開く。
そして言葉を失った。
目を見開き、口元を手で覆い、食い入るように見つめる。
「可愛いだろー」
「……これ、」
「俺だよ。七五三かな。だとしたら三つの時かなぁ」
光希が善逸に見せたのは、白黒の家族写真。
優しげに微笑みを浮かべる夫婦の側に、小さな女の子。長い髪を二つ縛りにしている。