第58章 光
「我妻も持ち駒か」
「いえ……こいつは軍師である俺の側に」
「出さないのか」
「……なんてね。そんなわけにはいかないですよね」
そう言って、自分がなりたいと言った歩兵の後ろに置く。
「違う、そこじゃない」
義勇が手を伸ばして、香車を歩兵の前に置き直す。
「あいつにお前を守らせる」
「こりゃまた最前線ですね。あいつ、泣いちゃいますよ」
目を細めて三枚目の香車を見る。
「泣かない。あいつは、お前を守るためなら泣かない」
「そうですかね」
「泣いてる場合ではない」
義勇も香車を見て、声をかけるように言った。
「『雷は、闇夜に光る一本の槍』……なんですって」
「…………」
「俺の母様が、そう言っていた気がする。あいつが、……俺の闇を照らしてくれるのかな」
「……そうだな」
「髪色も明るくて、目立つし」
「ああ」
「うるせーし」
「ああ」
「暗闇の中でも、容易に見つけられるんだろうな」
光希はくすりと笑う。
将棋の駒を片付ける。
「……やっぱりこの陣は駄目だ。誰も捨て駒にできねえもん。最強に強いけど、俺の指揮じゃ鬼に勝てねえわ。香車なんて本当に特攻兵だもんね」
ザラザラと音を立てて駒をしまう。
「義勇さん」
「なんだ」
「俺、善逸に会ってきます」
「! そうか」
「炭治郎にも」
「わかった」
「でも、心を回復するためじゃない。や、結果回復にも繋がるのかもしれないですけど」
「……?」
「俺、もう回復しました」
「………」
「あなたに叱ってもらって、稽古してもらって、継子にしてもらって、記章もらって」
「………」
「へへ……将棋、指してもらって…、駒並べて一緒に考えてもらって…、……っ…」
話しながら、光希は泣きそうになるのを堪える。
……泣かない。もう泣いた。もう、十分だ
ふう、と呼吸をして、涙を引っ込める。