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雷鳴に耳を傾けて【鬼滅の刃】我妻善逸

第58章 光


義勇は部屋を見回す。
赤い釦の隊服は見当たらない。

今までは、着ないときでも部屋にかけてあった。

……どこかにしまい込んだな



「何かご用ですか?」
「将棋指すぞ」

義勇は押し入れを開ける。

「何故?今?」
「今のお前になら勝てるからだ。駒落ち無しで指せ」
「本気で言ってます?」
「俺が勝ったら俺の言うことを聞け」
「まあ、何でも。負けませんから」

突然の勝負が始まる。


対局序盤。

「久々ですね」
「そうだな」


対局中盤。

「義勇さん、何か強いですね」
「お前が弱いんだ。何故かわかるか」
「はて。勝ってから言ってください」


対局終盤。

「………やりますね。さては暇な間に棋譜並べて勉強しましたね」
「どうだろうな」


そして対局終了。

「はい。王手、詰みです」


光希の香車が義勇の玉将を捉えた。



「………、いや、義勇さん、ここは勝たなきゃ駄目なやつだったのでは?」
「…………」
「おそらく、悲鳴嶼さんと話し合って俺を休ませようと思ったんですよね。で、きっと今の俺は思考が鈍ってるから将棋で勝てると思ったんでしょう」

全部を言われて、もはや義勇は俯くしかない。


「ごめんなさい、強くて。指しながらなんとなくそういうのがわかったんですけど、俺やっぱり負けたくないし」
「だが、お前がここまで攻め込まれてる。思考は鈍ってる」
「そうですね。駒落ち無しでここまで攻め込まれたのは天元さん以来です。少しだけ焦りました」
「…………」
「思考鈍った俺には、勝たなきゃ。これじゃ俺は休めない」

光希も苦笑いだ。


「飛車落ちでもう一局」
「いいですよ?」
「俺が勝ったら、帰宅しろ」
「……いいでしょう」

そして第二局。
飛車を落としたのに、先程より早く勝負がついた。

「詰みです」

今度は桂馬でとどめを刺す。


「俺、不利な状況の方が得意かも。はは」
「……思考が回復してきたな」
「そのようですね。おかげさまで」

義勇がため息混じりで駒を片付けはじめる。


「とにかく帰って、家で我妻とゆっくりしろ」
「俺、勝ったんですけど」
「……帰れ。休め」
「拗ねないでくださいよ……」

明らかに不貞腐れている義勇に光希も軽くため息をつく。

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