第57章 拾壱ノ型
山の中、向かい合って座り、技の検証をしていく。
「俺は技の後に納刀出来ないから、善逸みたいに連撃は出来ません。あの速さで納刀したら、鞘に入れ損なって俺の右手親指は落ちます」
「拾壱の連続は出来ないな」
「はい。でも、すぐに違う型で次を出そうとすると、逆手になってしまいます」
「左で持っているからな」
光希は柄しか残っていない木刀を握って説明する。刀身は光希の水流一閃と義勇の凪の圧に耐えられずに粉砕されていた。
「持ち替えて、反転して、次の技かぁ。一手増えちまうなぁ」
「片手の技を、そのまま左で振ればいい」
「水面切りとかですか?」
「そうだ」
「なるほど」
「片手技を、全て左でも出せるようにしておけ。右と大差無いところまで昇華させろ」
「はい。あとは、まだ力を溜める時間がかかります。そこを短縮していきたいです」
「瞬時に力を高められるよう反復練習で繰り返せ。瞑想の時も、具体的に思い描くんだ。爆発力をつけろ」
「はい」
光希は大きく頷く。
「技としては悪くない。お前にとって最良だろう」
「はいっ!」
「やる」
そう言って、義勇は水色の記章を光希に渡した。
「……え?」
「俺が、お前を認めた印だ」
「義勇さん……」
「とうの昔に認めていたがな」
「……これ、俺が貰っていいんですか?」
「俺のところまで来る者はほとんどいない」
「だから、水色は五つくらいしか作ってないですよ」
「希少品だな」
光希は手の中の記章を見つめる。
「俺は、これを貰うことはないんだと思ってました。……はは、貰うとこんなに嬉しいんだな。我ながらいい策を提案したと思います」
「そうか」
「嬉しい。嬉しいです。ありがとうございます。義勇さん」
光希は記章をぎゅっと握りしめ、嬉しそうに笑う。