第56章 探しもの
「義勇さん。明日の午前中、稽古つけてくれませんか?暇でしょ?」
「暇ではないが、……いいだろう」
「やった!……てか、何で暇だと認めないんですか」
光希は喜びながら笑う。
数冊の本を持ち、立ち上がった。
「では、おやすみなさい。今日はありがとうございました」
光希は深々と頭を下げる。
「ああ」
「失礼します」
光希は自室へ去っていった。
……不器用な奴だな
義勇は黒い本に手を伸ばして読む。
光希はこの本をしっかりと読むことが出来ないかもしれない。いや、頑張って読むのだろうが、落ち着いた心で読むことは難しいだろう。
その分、自分が深く理解をしておこうと思った。
彼女の師として。
……この悲しい一族は、これまで十分に罪を償おうとしてきた。もういい、もういいんだ、光希。お前が背負う必要なないんだ
光希は部屋に戻ると布団を敷いた。
布団からは太陽の匂いがした。
光希が帰宅すると聞いていた千代が、昼間に干してくれたのだろう。
千代も愛する娘を鬼に殺されている。
「母ちゃん、……俺の事、嫌いにならないで。お願い」
光希はそう呟いて布団の中で丸まる。
全く眠れなくて、起き上がって本を読む。
「……ううっ…、……くっ……」
涙が頬を伝う。
………善逸が、ここに居なくて良かった。どんなに声を殺しても、あいつには聞こえてしまうから
光希は義勇に聞こえないように、一人で泣いた。