第56章 探しもの
「お前の家は…代々医者家系なんだな」
「そのようですね。道理で、薬の本が多いわけだ。やたらあった植物の本も、もしかしたら薬の材料なのかもしれません」
「確かにな」
「必要ならば持ってきますので」
「ああ」
光希は義勇の側にある黒い本を見つめる。
義勇もその視線に気付く。
「……見付けた時に、身体が震えました。読んでもいないのに、怖くて怖くて…。あれは何なのでしょう」
「記憶は遺伝すると聞いたことがある」
「記憶の遺伝……」
「お前の中の血が恐怖を与えたのなら、お前の一族はずっと後悔と反省をしてきたんだ。平安時代から現在までな。だからもう、いいだろう。十分だ」
「………」
光希は本を手に取る。
頁を開こうとするが、震えて開けない。
「無理するな」
「………くそっ、」
「読みたくなったら読み聞かせしてやる」
「それはそれで地獄です」
「途中で止めろと言っても続けるからな。千代に言いつけても止めない」
「さっきの仕返しですか」
光希は諦めて本を床に置く。
本をじっと見つめる。
「このおぞましい黒の表紙が良くないんじゃないか?なんとなく恐怖を与えません?」
「俺は、別に」
「……おかめさんの顔でも貼り付けるか」
光希がそう言うから、義勇は吹きそうになる。
「おかめさんじゃ可愛くはならないな」と首を傾げて考える光希。
「……お前の部屋にあった、兎の絵とか」
「いいですね」
「何故兎が桃色なんだ。兎は白か茶色だろう」
「うわっ、義勇さんわかってませんね。可愛いじゃないですか桃色の兎さん。お目々ぱちくりしてたでしょう」
「あれは、妖怪だ」
「自分の娘にそれ言ったら一生嫌われますよ」
光希は笑いながら本を手に取る。
ぱららら……と頁をめくる。
一瞬笑顔が強張ったが、ふぅ…と一息吐くことで気持ちを落ち着け、自分の持っていく用の書籍の上に置いた。