第56章 探しもの
光希は本を受け取ったまま、動けないでいた。
「……明らかに、隠されていたな」
「ええ。見事に、隠されてましたね」
義勇は棚を元通りにはめ直し、他に隠し戸がないか棚を触りながら見て回る。
「………ちょっと、怖いんですけど」
「お前の探しものはきっとそれだろう」
「……まあ、そうなんですけど」
光希は机の上に本を置く。
「見ちゃいます?」
「見付けてしまったからにはな」
「父様の春画本だったりして。はは。それはそれでやばいやつですね」
義勇も側に来る。
呑気な口調とは裏腹に、光希の手は震えていた。
「大丈夫だ。俺がいる」
「……はい」
光希が油紙を開く。
何重かに重ねられた油紙の奥から出てきたのは黒い表紙の薄い本。かなり古い本のようで、劣化が激しい。
本を机に置いたまま、光希の手が表紙を開いた。
そこには、
「如月一族の罪」
と書かれていた。
光希は「ひっ…」と声を上げ、咄嗟に本を閉じて義勇の背中に回ってしがみついた。
「……怖いっ!怖い怖い!嫌だ!」
義勇は光希のその行動に驚いたが、背中にくっつく光希を振り払いはせずに本を見る。
「光希。大丈夫だ」
「ううっ……罪ってなに。なんなの。怖い…父様、母様……」
背中で震える光希。酷くおびえている。
そういえば、ここに来るときも怖いと言っていた。何か忘れている記憶が、光希に恐怖を与えているのかもしれない。
「光希。落ち着け」
「なに…なんなの……嫌だ、嫌だ……」
「しっかりしろっ!お前は誰だ!」
義勇が叱責する。
光希が背中でビクッとする。
「お前は、鬼殺隊総司令官・如月光希だ。鬼に関することなら調べなければならない。どんなに辛い事実が出てきたとしても、そこから逃げるな」
「………はい」
「そしてお前は俺の、優秀な弟子だ。だから、大丈夫だ。側にいる」
「はいっ!……みっともない姿をお見せして、申し訳ありませんでした」
光希は義勇の背中から手を離した。ゆっくりと前へ出てくる。
震える手を、もう一度本に向けて伸ばした。